必ずや二人ともに、腕に覚えあり余るつわもの[#「つわもの」に傍点]には相違あるまい――そうだとすれば、時にとってのよい見物《みもの》、場合によっては、仲裁の役に廻り、あたら両虎を傷つけないようの老婆心もあってよかろう――ともかく、行って見よう。しかし距離が――あれだけの距離、目分量で、十町余りはたしかである。
これから、息をも切らさずに飛んで行っても、走《は》せつけた時分には、もう両虎ともに傷ついて起つ能《あた》わざることになっているか、一方が一方を処分し終った時になっている――そこで、あえて急ぐ必要はあるとしても、急いだ効果はないものとして、件《くだん》の小丘を、おもむろに下ろうとしていて、ふと首をめぐらした時、計らずも今度は、海上に於て異様なる黒一点を認めました。
それは、海岸の陸に於て、目下見つつあった二つの黒影とは、比較を絶するほどに大きな黒影が、波を切って南に向って行くのであります。
「黒船だ!」
白雲が眦《まなじり》を決してその黒船を睨《にら》んだ瞬間、ただいま決闘――と認定せる二つの人影のことは全く忘れ去りました。
「うむ、黒船だ」
こんな大きな海上を走る存在物を、多分、白雲は今までに見なかったであろう。檣《マスト》を立て、煙を吐いて行く黒船の雄姿は、田山の眼と、心とを、両個《ふたつ》の人影から奪うに充分でありました。
黒船――その名が暗示するところは、日本のものではない、日本には海上を走るもので、これだけの存在物は目下あり得ない、と白雲の頭はなんとなく激昂する。
鹿島洋を横断する不敵な怪物!
荒海を征服してわがもの顔に行く、その雄姿を、この大洋の上に見せられると、白雲も、外夷を軽蔑する頭を以て、充分の敵愾心《てきがいしん》を呼び起されつつも、なおその姿の懸絶に動かされないわけにはゆかない。どう贔屓目《ひいきめ》に見ようとしても、黒船の雄姿に比ぶる和船は、巨人と侏儒《こびと》との相違である。いかに軽蔑しようとしても、眼前を圧する輪郭は争われない。
田山白雲は、一種の感激と、いらだたしさを感じて、黒船の姿に見とれ、決闘の場に赴くべく、丘を下らんとした砂丘を下らずして、しばらく立ち尽すのやむを得ざるに至りました。
駒井甚三郎ならば、この徒《いたず》らな感激と、敵愾と、いらだたしさから超越して、まずこの黒船の型が近代の何式によるかを観察し、
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