くや》しい!」
もゆる子は歯噛みをして、息をはずませている。駒井は憤然として拳を握りしめました。
「ああ、油断の罪だ、ちょっとの注意の怠りが、そうさせたのだ」
「ホントに憎らしい奴です、いつ、隙《すき》をねらって来たんでしょう、ふだんならば、そのくらいの物音でも、わたしが声を立てなくても、金椎《キンツイ》さんはいけないとしても、茂ちゃんは直ぐに眼をさましてくれるし、声を立てれば、殿様のお寝間までも聞えるんだから、それにあのマドロスの奴も、このごろは、皆さんのおかげで全く改心したものと安心していたのが、こっちの抜かりでございました、今夜という今夜は、もう充分に隙をねらっていたのですね、茂ちゃんを驚かす物音もさせず、わたしに人を呼ぶ隙も与えずに、どうすることもできないようにしてしまったのです、ああ、口惜《くや》しい」
「うむ、油断だ、全く、こっちの油断の責めというよりほかはない、む、む」
「ですけれども、女だって、一生懸命というものはばかになりません、それほどにされた、あの大きな奴を突き飛ばして、はね起きて、わたしは、殿様のお居間までかけつけたのは、自分ながら夢中でございました。ところが、殿様のお居間の戸をあけますと、今夜は容易《たやす》くあきましたが、殿様がその中にいらっしゃいません、そのうちに、恐ろしい足音でマドロスが追いかけて来るものですから、わたくしは、たまらなくなって、あの窓から飛び出して、こっちへ逃げて参りました」
「ああ、そうか……」
駒井が、こうも抑えきれない無念の色を現わすことは、今までにあまり例のないことでありました。
「もう、安心なさい、マドロスの奴、酒の上とは言いながら、許し難き奴」
駒井は、やはり抑え難い怒気を含んで、そうしてその手はぐんぐんと、もゆる子を引き立てて、そうして陣屋の方へ急ぎました。
帰って駒井は、手早くキャンドルをともして見ると、狼藉《ろうぜき》のあとは、女の言うことを如実に証明しているが、当の暴行者の姿は見えない――ただ、茂太郎の声としてしきりに泣き叫ぶのが聞える。
駒井と兵部の娘とは、その声を聞きつけて飛んで行って見ると、茂太郎は蒲団《ふとん》の上に仰向けに抑え込まれている。茂太郎を抑え込んでいるのは人間の力ではなく、漁に使用する網を上から押しかぶせて蒲団もろともにグルグル巻きにしてあるのでありました。
そして、
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