し上げてはなんだが、当時惰弱の公方様《くぼうさま》に任せておいては、多分、その一つさえ元も子も無くなってしまやしないかと、こう思いますから、そいつを一つ、ちょろまかして、世間が鎮まるまでどこぞ深い山奥へでも隠して置いたら、どんなものかと、そんなばかな了見で、仕事にかかったものでございます。それでもまあ、苦心の甲斐があったというものか、ようやくこのごろになって、その一つだけは、その目方と、在所《ありか》だけは朧《おぼろ》げながら突留めて参ったという次第でございます」
「そうか、さすが蛇《じゃ》の道だ、拙者共の伝手《つて》で、どうしても要領を得なかったものを、お前の働きであたりがついたとは感心だ。いったい、その代物はどこにある?」
「その一つは、たしかに尾張名古屋の城の、御宝蔵にあるとこう睨《にら》みました」
「名古屋の城に――」
「はい、尾張名古屋のお城というところには、どういうものか、徳川のお家の選《え》りすぐった宝という宝がよせ集めてあるようなあんばいでございますな。大阪の城から取って来た、太閤様のエライ品物はお江戸には置かず、みんな尾張の名古屋にしまってござるというのは、権現様の思召《おぼしめ》しで、名古屋が、何につけても、いちばん安全だというところから、そんなことになすったという説もございますが、太閤様の御威勢でおこしらえになった贅沢品《ぜいたくひん》という贅沢品がすぐって、あの尾張名古屋の城に入れてございますようですから、たいしたものでございます。外へ出ている金の鯱ばかりが名物ではございません、お城の中には、今いった千枚分銅をはじめ、宝という宝が腐るほどうなっているんだそうでございます。そこでこの七兵衛もまた出直して、尾張名古屋へ当分根を生やそうかと思いまして、それで、ちょっと、お暇乞《いとまご》いに上ったようなわけなのでございます。これはお土産のしるし……」
と言って七兵衛は、保命酒のようなものを一つ取り出して主膳の前に置き、そのまま、風のように、さっ[#「さっ」に傍点]と出かけてしまいました。それを、あっけに取られて見送っていた主膳が、
「相変らず忙しい男だ、お土産を持って到着の挨拶に来たのだか、出立の暇乞いに来たのだかわかりはしない、羽の生えている奴にはかなわねえ、尾張名古屋への往復が、芝金杉へ行くような調子なんだから。だが、危ねえもんだなあ、あいつ、
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