きの中に、土蔵住まいをしていた時の机竜之助の口ずから聞いて、亡き者を、有るが如くに妬みにくんだあのお浜という不貞な女。
 お銀様は、筆誅を加えるほどの意気組みで、その名を錐《きり》で揉み込むほど強く木片に認《したた》めて、長いこと睨みつづけておりました。
 その次には、自分の継母を加えようとしたらしいが、あれはにくむに足りない女だという、軽蔑の気が先に立ったものか、急にとりやめてしまったようです。
 ある時は、お角という女興行師の親方をも筆端に上せようとしてみたが、いやいや、あの女も悪女ではない、いい女だ、気象のさっぱりした、男惚れのする女でもあれば、男まさりもする女だ、自分に対してだけは妙に気を置くが、自分はあの女を嫌いではない、あれは悪女ではあり得ない、とあきらめもしたようです。
 そこで、お銀様は、なお周囲を狭くして、自分の眼に見、耳に聞くところの範囲での悪女――姦通した女、放火《ひつけ》をした女、どろぼうした女、殺した女、殺された女、およそ問題になるほどの淪落《りんらく》の女を調べる気になりました。
 夫を持ちながら情夫が数人あって、その情夫に殺されたというなにがし村の淫婦。
 夫を毒殺して男と逃げたという良家の家附きの女房。
 娘の婿を奪って、娘を川へ突き飛ばしたという後家さんの名。
 美人局《つつもたせ》で産を成したという、強者《したたかもの》。
 夫の情婦をつかまえて来て、焼火箸で突き殺したという武勇伝の女主人公。
 強姦されて出来たという子を殺した娘。
 曰《いわ》く、何、何……
 お銀様としても、多年、左様な淪落の罪悪史を聞いていないことはない。また人の口の端《は》から口の端へと上って成される三面記事を、かなり読ませられていないではなかったが、いざ、目的を以て調べ上げるということになってみると、その材料の蒐集にはかなり不足を感じてきたようです――そこで、例の女中共に強圧命令を下したり、小作連に酒を飲ませたり、甲府から来る石工の若いのを誘惑したりして、その口からとめどもなく、その醜い方面の風聞の募集に取りかかりました。
 この計画はかなり図に当ったようです。夜もすがら、酒を飲ませ、肉を喰わせつつ、思う存分に、エロチッシュを語らせて、それを一室にあって盗み聞くお銀様は、かくてまたこの事に得ならぬ会心と昂奮とを覚えたようです。
 それを聞取ったお銀様は、
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