のみではなく、配下の者がみな認めたけれど、その旗印の何物であるかは、遠眼鏡のみがよく示します。
上州高崎松平家か、その系統を引くこの地の領主|大多喜《おおたき》の松平家ならば島原扇か橘《たちばな》、そうでなければ、俗に高崎扇という三ツ扇の紋所であるべきはずのを、いま、遠眼鏡にうつる旗印を見ると、それとは似ても似つかぬ、丸に――黒立波《くろたてなみ》の紋らしいから、合点がゆかないのです。
そこで組頭は、またも配下の一人に遠眼鏡を渡しながら、
「あの旗印はありゃ何だ、君ひとつ、よく見当をつけてくれ給え」
「なるほど」
それを受取った配下の一人が、しきりに考えこんでいると、組頭が、
「高崎の紋ではないじゃないか」
「仰せの通りでございます、丸に立波のように見えますが」
「その通りだ、拙者の見たのも丸に立波としか見えない、が、丸に立波はどこだ」
「左様でございます」
彼等残らずが一つの旗印を見つめて、不審の色を、いよいよ濃くしてしまいました。
最初には掲揚されていなかった旗じるし、多分時間から言ってみると、これはさいぜん、詰問にやった配下の者の交渉の結果であろう、その交渉の結果、彼等
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