り]

         一

 駒井甚三郎と、田山白雲とが、九十九里の浜辺の波打際を、轡《くつわ》を並べて、馬を打たせておりました。
 駒井は軽快な洋装に、韮山風《にらやまふう》の陣笠をかぶって、洋鞍に乗り、田山は和装、例の大刀を横たえた姿が、例によって奇妙な取合せであります。
 それで二人は、九十九里の浜辺を、或いは轡を並べたり、或いは多少前後したりして、今でいえば午後三時頃の至極穏かな秋晴れの一日を、悠々《ゆうゆう》として、馬を打たせ行くのであります。
 天高く馬|肥《こ》ゆといった注文通りに、一方には海闊《うみひろ》くという偉大な景物を添えているのだから、二人の気象も、おのずから昂然として揚らざるを得ないような有様です。
「どうです、田山君、この辺の海は」
と、駒井甚三郎が海をながめて、少し後《おく》れた田山を顧みて言いました。
「海岸の風物が一変したら、海そのものまでも別のような感じがします」
と、田山白雲が答えました。
「そうですね、九十九里は全く別世界のような気がしますね、大東《だいとう》の岬《みさき》以来、奇巌怪石というはおろか、ほとんど岩らしいものは見えないではありま
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