至りでござりまする、それがために尾張領ではただいま、夜を日についで、その米穀の貯蔵所を建設中でござりまするが、なにぶんにも手廻り兼ねて、難儀を致している次第でござりますることゆえ、恐れ多い願いではござりますが、向う三年の間、大坂城を拝借の儀お許し下さるまじきや、大坂城を三年間お貸し下されて、尾張藩眼前の難儀をお救い下さるならば、木曾山三年間お借上げの儀も、まことに容易《たやす》き次第でござりまする……と、こう越前守の前で申し出でたものでございます」
「なるほど……うまいところを言ったね、それで越前守が何と言ったい」
「満座の者が、この少年家老の奇言に驚倒したそうでございます、ところが水野越前守殿が少年家老に向って、そのほう、少年の身でありながら、主人に一応の相談もなく、公儀に向って即答をなすとは奇怪千万――水野殿もさるものですから、こういって叱ると、鈴木少年家老は申しました、不肖ながら、それがしは尾張藩を代表して参上つかまつりました、拙者の申すところに一家中異議のあろうはずはござりませぬ、ときっぱりと言いきってしまったから問題はありません。これがために、大坂城の御借用はもとより、木曾山お借上げのこともおじゃん[#「おじゃん」に傍点]になってしまいました」
「そりゃ、そうありそうなことだ、そうなけりゃあならぬことです。しかし、鈴木少年家老の器量、あっぱれ、あっぱれ、まさに木村長門守血判取り以上の成績だ、誰が知恵をつけたか知らねえが、出来ばえは申し分がねえ」
と道庵も感心をしました。僧形の同職は、なお念をおして言いました、
「かりにその時、退引《のっぴき》なく三年間というもの、この木曾山を公儀へお貸し申してみてごろうじませ、それはなるほど、木曾山山林だけで、大公儀の財政の急を救ったかも知れませんが、山はさんざんになって、この頭のような有様になってしまわないとも限りませぬ」
といって僧形の同職は、自分の頭をツルツルと撫で廻し、
「しかるに先生のお頭《つむり》のように、いつも若々しく緑の色|鬱蒼《うっそう》と、この木曾の山が森林美を失わずにおられますのは、つまりその時の鈴木千七郎殿の舌一枚でございました」
と言われて道庵がくすぐったい顔をして、自分の頭の即製のハゲかくしを撫でてみました。
「それで今日は、その尾州家の木曾領お見廻りの重役が、この川狩りを検分に参りましたために
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