ねていると、道庵は、
「おれは十八文だが、時と場合によれば三両や五両の金には驚かねえ、遠慮なく取っときな」
 道庵はここで大いに男を見せたつもりだが、見せられた方は、いよいよ度を失ってしまいました。

 この偶然の因縁《いんねん》から、道庵先生は、福島の宿駅から、少なくとも美濃の国まで通し馬に乗ることの便宜を、報恩的に与えられることになりました。
 翌日、大得意で道庵先生が、馬に乗って福島の宿駅を立ち出でることしばし、
「あ、忘れた」
と馬上で叫び出し、
「あの獣皮屋《けがわや》へ、熊胆《くまのい》のいいところを一くくりあつらえて、昨夜《ゆうべ》のうちに代金まで渡しておいたが、出がけに忘れてしまった、済まねえが友さん、ひとつ取って来てくれねえか」
「よし来た」
 宇治山田の米友は心得て、熊胆を受取りに、宿の方へ取って返しました。
 そのあとを道庵は、悠々《ゆうゆう》と馬を進ませて、臨時に馬子をつとめているかの百姓と語ります、
「ねえ源助様」
 美濃の百姓の名は、これによって見ると、多分源助というのでしょう。
「はい、はい」
「泣く子と地頭《じとう》には勝たれねえってことを知っているかね」
「知っておりますよ」
「ところで、お前さんのそのお茶屋へ売ったという娘さんは、今年いくつにおなりだえ」
「十七になりましたでございます」
「十七……いいところだね、十七姫御が旅に立つってね」
「はい、はい」
「きりょう[#「きりょう」に傍点]は、どうだね」
「左様でございますね、瓜の蔓《つる》に茄子《なす》はならねえのでございますから」
「だって、お前、鳶《とんび》が鷹《たか》を生むということもあるぜ」
「へえ、まあ、不具者《かたわ》でないのが見《め》っけものでございますよ」
「鬼も十七、山茶も出ばなといって、不具《かたわ》でさえなけりゃあ、娘ざかりだから、乙なところがあるにきまってらあな」
「どういうものですか」
「どうだい、その娘さんに、これから婿《むこ》を取らせなさるのかい、それとも嫁《よめ》にやってもいいのかい」
「そりゃ、まだ兄弟が幾人もございますから、相当なところがあれば、片附けたいのでございますよ」
「そうか、ひとつ世話をして上げようかね」
「お頼み申します」
「江戸じゃいけねえのかい」
「お江戸なんぞへ、山出しのあれが納まるものじゃございません」
「それじゃ奉公はど
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