の山風が、夜寒の枕を動かそうという時なんぞは、つまらない道楽をしたものだと頭へ風呂敷をかぶせながら、眠りにつくような有様なのであります。
 今も、その官能的な鄙歌《ひなうた》を叱りつけてから、ゾッとその寒さを心頭から感じて、あわてて枕もとの風呂敷を取って、その頭からかぶせてしまい、そうして道庵並みに軽い旅情というようなものに動かされて、こし方《かた》、行く末というようなものが上《うわ》っ面《つら》へのぼって来たところであります。
 前例によって、松本を出でて以来の道庵主従の旅程を挙げてみると、
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松本から村井へ一里二十町
村井から郷原《ごうばら》へ一里十二町
郷原から洗馬《せば》へ一里二十四町
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 ここで塩尻からの本道と合し、
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洗馬から本山《もとやま》まで三十町
本山から贄川《にえかわ》まで二里
贄川から藪原《やぶはら》まで一里十三町
藪原から宮《みや》ノ越《こし》まで一里三十町
宮ノ越から福島まで一里二十八町
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という順序で泊りを重ね、ようやくここ木曾の中心地、福島の駅路についたというわけです。
 そこで、大体そんなような気分で、寝もやらず、さめもやらずに浮かされていると、ふすまを隔てた一方の室にあたって、気になるものがありました。
 縁起でもない、どうもさいぜんから、誰かこの隣室にそっと送り込まれて来てはいるようだが、この際、しきりにしゃくり上げて泣いているようであります。
 最初は道庵も、あまり気にしませんでしたが、そのしゃくり上げて泣く声が、ようやく耳にさわって来ると、先方はついには声を挙げて泣き出さぬばかりになっては、それを我慢して、またしゃくり上げていることが、かなり長い時間にわたっているものですから、道庵先生が、少しくうるさいと感じました。
 何だい、何を泣いてやがるんだ。その、しゃくり上げっぷりによると女じゃあない、男に相違ない。相当の年配の男のくせに、めそめそと、人の隣室へ来て、夜中に、泣いて聞かせる意気地無し――という気になったものですから、少しいって聞かせてやろう、という勢いになりました。
 ここが、道庵先生のお節介なところで、癪《しゃく》にさわったら寝ていて、あてこすってやってもよし、怒鳴りつけてやってもかまわないところですが、この先生は、すっくと起
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