う》として煙草をのみにかかりました。
「はい」
「お前、そのお松さんという人と懇意なら、どういうわけで、どこから、こんな絵馬を持っておいでなすったか、それを聞いてみるといい。まあ、ごらん……」
七兵衛は今更めかしく、絵馬をとり上げて、裂けたのをピタリと一枚に食い合わせて、与八の前へ突きつける。
「人の物を盗《と》ると……十両からこうなるんだぜ、九両二分まではいいが、十両からになると、どっちみち、こうなる運命はのがれられねえんだ、間男《まおとこ》と盗人《ぬすっと》は、首の落ちる仕事だよ」
「まあ、お茶をもう一つ、おあがんなさいましよ」
と、与八が熱いお茶の二杯目を七兵衛にすすめると、
「こりゃどうも御馳走さま」
「ここにたらし[#「たらし」に傍点]餅《もち》がある、よろしかあ、おあがんなさいまし」
与八は、傍《かたえ》のほうろくの中にあったたらし[#「たらし」に傍点]餅をとり出して、お盆の上に載せると、
「どうも済みませんねえ」
七兵衛は与八のもてなしぶりを、ようやく不思議な色でながめました。
どうも少し変っている男だと見たのでしょう。第一、もう疾《と》うに許されている首の縄が、まだ外《はず》されていないのもこの場合、七兵衛としておかしいくらいに見えました。
つまり、最初のうちこそ、縄を外してくれと要求しながら、その要求通りに縄を投げ出されてみると、それですべてが許されたものと心得て、それからは火をくべることだの、お茶をいれることだの、たらし[#「たらし」に傍点]餅をすすめることだのにとりまぎれてしまって、首の縄を全く忘れ去ってしまったものらしい。
途方もなく人のいい男だ――と七兵衛は、その首の縄を見ると、そぞろに自分ながらおかしさがこみ上げて来るもののようです。そこで、
「若い衆さん、その縄を取っちゃあどうだい、その首の縄を」
自分からかけておいた縄を、こう言って、先方の自決を促すような気持にまでなりました。
「あ、そうだね」
そこで、与八は首の縄へ手をかけてグイと引張ると、縄は素直に外《はず》れる。その素直に外れた縄を一方に置き、また三杯目の茶を注いで七兵衛にすすめました。
「若い衆さん、お前さん、幾つにおなりなさる」
「わしかね、わしゃ十九でござんすよ」
「いいかっぷく[#「かっぷく」に傍点]だね」
「ええ……」
「力があるだろうなあ」
「ええ…
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