しが一番先に上げたんだから、あたしのあげたお団子から先にお食べ……」
とすすめると、一人が、
「どれから先に食べたっていいじゃないか、ねえ、与八さん、与八さんの好きなのから先にお食べ、お団子でも、てんぷらでも、お赤飯《こわ》でも、かまわないから、遠慮しないでたくさんお食べ……」
与八も、この御馳走には痛み入ったようです。
「どれでもいいから、与八さんの好きなのから先に食べさせることにしようじゃねえか」
と、一人が言います。
「そりゃそうさ、先に出したから、先に食べなくってはならねえときまったわけじゃねえ、与八さん、お前の好きなのから先にお食べ……」
本人の趣味を無視して、御馳走を食べることの前後にまで干渉するのはよくない、と主張する者もあります。
よんどころなく、与八は串にさしたお団子を取って食べました。
「そうら見ろ、おいらの出したのから先に食べた。与八さん、うまいだろう」
「うん」
「そうら見ろ、うんと言った。うまけりゃ遠慮なしに、モットお食べ……」
子供たちは、なけなしの小遣《こづかい》で買った団子のすべてを提供して、悔いないような有様です。
「与八さん、この鯣《するめ》も食べてごらんよ、お団子ばかり食べないでさ……」
「いけねえやい、今度は、おいらのあげたてんぷら[#「てんぷら」に傍点]を食うんだぞ、てんぷらを――」
「静かにしろよ、与八さんの好きなのから先に食べさせるんだといってるじゃねえか」
「与八さん、モットお団子をお食べ。まだ三串あるよ……」
「与八さん、お団子を食べてしまったら、あたいのお強飯《こわ》を食べて頂戴な……」
ふところから、破れてハミ出した赤飯の紙包を持ち出したのは、五ツ六ツになるお河童《かっぱ》さんの女の子であります。
「いけねえやい」
十二三の悪太郎が、無惨《むざん》にも、そのお河童さんを一喝《いっかつ》して、
「いけねえよ……おめえのお強飯《こわ》は食べ残しなんだろう、自分の食べ残しを、人に食べさせるなんてことがあるかい、人にあげるには、ちゃんとお初穂《はつほ》をあげるもんだよ、お初穂を――食べ残しを与八さんに食べさせようなんたって、そうはいかねえ……」
悪太郎から一喝を食って、無惨にもお河童さんは泣き出しそうになると、同じ年頃の善太郎が、それをかばって言うことには、
「いいんだよ、与八さんは、残り物でもなんでも悪い
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