は地上の宝でございます、木を植ゆるは徳を植ゆるなりと申されてありまする、あなた方の御先祖代々が、せっかく丹精して、あれまでに育てて霊場を荘厳《そうごん》にしてお置きになるのを、むざむざと伐って、それでよい心持が致しますか……また山の自然の形には、自然そのままで貴いところがあるものでございます、これを切り崩して、後日の埋め合わせはどう致すつもりでございますか。俗世間でも、家相方位のことをやか[#「やか」に傍点]ましく申しますのは、一つは、この自然さながらの形を、重んずるところから出でているのではございませぬか……それほどまでにして、車を仕掛けてあなた方は、いったい、だれをおよびになろうという御了簡《ごりょうけん》なのですか。聖衆は雲に乗っておいでになりまする、信心のともがらは遠きと、高きを厭《いと》わぬものでございます、ゆさんの人たちは足ならしのために恰好《かっこう》と申すことでございます……ところの幽閑、これ大いなる師なりと古人も仰せになりました。出家のつとめは、俗界の人のために清い水を与えることでございます、清い水を与えるには、清いところにおらなければならない約束ではございませぬか…
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