のはそのあとのことで、お絹とひきちがいに、下男が近所の酒屋へ飛びました。
お絹は日頃、主膳の酒癖を知っているから、この点は厳しくして酒を禁じていたものです。主膳もまた、その悪癖を自覚しているから、お絹の禁制をかえって力にもしていたようですが、今は、矢も楯もたまらず酒が飲みたくなって、下男を追立てたものです。
で、居間に入って、ひとりでチビリチビリとやり出した時に、ようやく鬱憤《うっぷん》が、酒杯の中へ燦爛《さんらん》と散り、あらゆる貪著《どんじゃく》がこの酒杯にかぶりつきました。
やがて癇癪が納まって陶然《とうぜん》――陶然からようやく爛酔《らんすい》の境に入って、そこを一歩踏み出した時がそろそろあぶない。
「誰だ、そこへ来たのは」
酔眼にようやく不穏の色を浮ばせ、主膳が一喝したのは、まさしく酒乱のきざし[#「きざし」に傍点]と見えました。幸いにそれを真向《まっこう》から受ける相手がいない。
「誰だ、案内もなくそこへ通ったのは?」
誰もいないはずの人をとがめていると、いないはずのところで、
「はい、これは神尾主膳様」
と返事がありました。
「誰だ、聞覚えのない声じゃ、襖《ふす
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