ろもの》ですが、それを持ち出した留守居の源五の腕だけは、あの時の一軒屋の亭主よりも上らしい。
 こうして鉄砲が一挺に槍が二本、同勢六人で押し出した熊狩隊は、行く行く熊の話で持切りです。
 熊は必ず一頭では歩かない、親の行くところには必ず子が従うということ。熊の掌《てのひら》の肉がばかに美味《うま》いということ。熊の胆《い》の相場。熊は山を歩くにも、猪や、鹿のように、どこでもかまわぬという歩き方をしない、だから、ここを追えばここへ出るという待ち場所はちゃんときまっている――というようなことを話し合う。
 池田良斎はそれを聞いて、商売商売だと思う。よく朝鮮征伐の物語で、勇士が虎に接近した昔話を読むが、この辺の猟師もそれに負けないことをやる。そうしてかれらは、それを冒険だとも、手柄《てがら》だとも思っていない。かえってその冒険よりも、熊一頭の所得を偉大なものだと信じていることを不思議がる。
 暫く進んで、ようやく山深く分け入った時、
「ソラアいた、いた――ソレ、あすこで動いてるのを見ろやい」
 一人が叫び出すと、すべての眼の色が緊張する。
「一発ブッくらわしてみろ」
 そこに獲物《えもの》の影を認めて、早くも追出しの鉄砲を一発打つと、意外にも向う遥かに人の声、
「人間だよ、人間が一人いるから、気をつけておくんなさいよ」

         三十二

 そこで、熊狩りの一隊が呆《あき》れました。
 彼等が呆れているところへ、お椀帽子《わんぼうし》を冠《かぶ》って、被布《ひふ》を着た旅の男が一人、のこのこと歩いてくるのは、「人間ですよ」と自ら保証した通り、人間が一人、抜からぬ顔をして現われて来ました。
「一体、どうしたんです、旅のお客さん、今時分こんなところを、どこから来てどこに行くのです……危ないこった」
と熊狩りが狩り出したその人間を取巻いて、詰問の体《てい》。
「わしどもは、旅の俳諧師《はいかいし》でございましてね、このたび、信州の柏原《かしわばら》の一茶宗匠《いっさそうしょう》の発祥地を尋ねましてからに、これから飛騨《ひだ》の国へ出で、美濃《みの》から近江《おうみ》と、こういう順で参らばやと存じて、この山越えを致しましたものでございますが……ふと絵図面を見まして、これよりわずかのところに白骨温泉のあることを承知致しましてからに、道をまげて、これよりひとつ、その白骨の温
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