いに怒り、刀を抜いてこの女房を一太刀《ひとたち》に斬って捨ててしまいました。
 この女房というのがすなわちお万殿で、もとは、美濃国岩村の城主遠山勘太郎が妻、信長のためには実の伯母《おば》です。岩村の城陥落の時、武田家の将、秋山伯耆守の手に捕われ、ついに伯耆守の妾となって、少しも恥ずる色がなく仕えていたから、信長が怒りに堪えずこの始末。
 それで、お万殿の恨みが消えない。遊魂《ゆうこん》今もさまようて、夜な夜な神詣《かみもう》でをするといういいつたえが残る。
「ははあ、ではそのお万殿というのが、色々の小袖を着て、錦の袋に茶入を納め、それを捧げながらこの前を通って、諏訪明神へ参詣というわけだな。そうなると、いよいよ見てやりたくなる」
 仏頂寺弥助がいいますと、丸山勇仙は、
「それはなんとなく忍びない心持がする、見てやらないのが人情だろう」
 その時、盃の酒の冷えたのに気がつきました。

         十二

 こちらの座敷では、明朝塩尻までの馬の相談にいって来た久助が、どこで聞いて来たか、前のとほぼおなじようなお万殿のいわれを、お雪に向って話すと、
「かわいそうだわね、それではお万殿の
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