の家は町はずれにあるはず。そこへ帰るつもりで、まるっきりちがった方角へ走っているらしい。そのくらいだから髪のくずれていることも知らない。着物のみだれていることも気がつかない。
「口惜しいッ」
と何かわからずに口惜しがって、街道を駈け出したが、やがてぱったりと物に突き当って打倒れ、その時、起き上るほどの気力がなかったと見えて、そこへころがったままでいる。
けれども気絶したわけでもなければ、怪我をしたのでもない。まだ、充分に酔いがまわっているのに、走り出して疲れたものですから、泥のようになって、そこにかすかないびき[#「いびき」に傍点]をさえ立ててねむってしまったのです。
女が倒れているのは――静かな神社の境内《けいだい》。突き当ったのは、注連《しめ》の張った杉の大木にめぐらした木柵。ここは諏訪の秋宮《あきのみや》、この杉こそは名木|根入杉《ねいりすぎ》。
この時が、ちょうど、例のお万殿の出遊《しゅつゆう》、呪《のろ》いを怖れる者の出てあるいてはならないという九ツ半でありました。
十三
しかし、その晩は、宿の方ではそれよりほかに変ったことはなく、お雪ちゃんも夜
前へ
次へ
全288ページ中111ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング