はなかなかの大家なんですってね」
「ええ、すてき[#「すてき」に傍点]なお金持だっていう話ですよ」
「ちょっと、お見舞に上ってみようか知ら」
「え……」
金助がお銀様のところへお見舞に行くといい出したので、お梅もいいかげんの挨拶ができなくなりました。
「お見舞に行ってまいりましょう」
「およしなさいな、お気にさわるといけませんから」
「大丈夫、お嬢様の御信任は、このごろ一《いつ》に拙者の上に集まっているんでゲスから……」
「それでも……」
「ついこの間などは、忠勤をぬきんでて、そっと申し上げてしまったものだから、もう今では一も金助、二も金助、さだめて今日もお待ちかねのことと存じます」
「金助さん、お嬢様に何を申し上げちまったの」
「イエナニ……」
「金助さん、お前、お嬢様によけいなお喋りをしやしないかエ」
「よけいなお喋りなどをするものですか。何しろお嬢様もたより[#「たより」に傍点]のないお身の上で、金助さん頼みますとおっしゃるものですから、拙《せつ》の気象で、ちょっとばっかりお力になって上げたまでのことですよ。以来お嬢様は、ことごとく拙をおたより[#「おたより」に傍点]なさるんで、お気むずかしいのなんのといいますけれど、それは嘘です。どれ、ちょっと御機嫌を伺いに行って参りましょう」
金助が立ち上ったので、お梅はおどろいて引留めようとしたが、また思い返すことには、あんまりいけ図々しい男だから、このまま二階へやった方が面白かろうと考えました。二階に寝ているのは無論お嬢様ではない、親方のお角であります。お角と知らないでこの野郎がノコノコと出かけて行って、歯の根の浮くようなことを喋り出したが最後、イヤというほどとっちめられるに相違ない。これは素敵もない見物《みもの》だと思ったから、お梅がワザと留めないでいると、金助の野郎は妙に衣紋《えもん》をつくろい、気取ったなり[#「なり」に傍点]をして、二階へノコノコとあがって行きました。
「金助さん、お嬢様のお気にさわってもわたしは知らないよ」
お梅の駄目を押すのを、金助は聞き流して、
「どう致しまして。お嬢様、へえ、どうも御無沙汰を致しました、先日はまた大枚《たいまい》の頂戴物を致しまして」
洒蛙洒蛙《しゃあしゃあ》として二階へ上り込んで見ると、お銀様は縮緬の夜具を、頭からスッポリとかぶって寝ていました。
「これはこれは
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