》って法術を行うということであります。飯綱の法術は人を惑わすものであるというところから、変幻出没を巧みにしようという輩《やから》は、この権現の特別な加護を蒙《こうむ》りたいものらしい。七兵衛とがんりき[#「がんりき」に傍点]とが、途中の気紛れにしろ、こうして飯綱権現へ願をかけてみようとする筋合いは読めないことでもないが、ちょっとわからないのはそれに続く、南無甚内殿、永護霊神様という神様の名前であります。甚内殿という神様は、どこにあるのか。また飯綱権現の一名を永護霊神とは呼ばないはずです。
 二人は、殊勝な面をして、飯綱権現に祈祷を凝らしておいて、神前に備えた安綱の名刀を、まず七兵衛が取り上げておしいただいてから、
「どうだい、こんな名刀を甚内様に持たしたら、ずいぶん人を斬るだろうなあ」
と言いました。
「うーん、こりゃ人斬庖丁にゃ勿体《もってい》ねえんだ、伯耆の安綱なんて刀は、神様に備える刀で、人を斬る刀じゃねえとよ。滅多に人を斬るには村正がいいね、村正てやつは、なんとなく凄味があっていいね」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]がこういう返事をしました。
 こんなことを言って二人は、山
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