に命がけで懸想《けそう》した男であります。その執念深い恋が、ついには物になって、お豊をつれて紀伊の国の竜神へ行って温泉宿の亭主となったその男であります。その宿から火が出て竜神の村を焼いた時に、竜之助はその男を、なんの苦もなく日高川の水上《みなかみ》へ斬って落しました。その後、お豊の話によると、金蔵は嫉妬《しっと》ゆえに狂い出したものだそうです。お豊と、ある前髪の若いさむらい[#「さむらい」に傍点]との間を疑《うたぐ》って、それから狂い出したということであります。取るに足らぬ男ではあったけれども、その執念の深いことは怖るべきものでした。垣根を忍び越えようとして竜之助のために泥田へ投げ込まれた恨みも、植田丹後守が自分を遠ざけるがために、お豊をかくまったことも、ことごとく、彼にとっては恨みの種でありました。ついには鉄砲を持ち出して、お豊以外の邪魔物をすべて撃ち殺そうとして失敗《しくじ》った程の執念であります。弾薬を明神の杉の木の根に埋めて、これを植田丹後守に見つかって、それがために処におられなくなったけれども、恋を捨てることができません。いろいろに浮身《うきみ》をやつして、ついにお豊の心を靡
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