使ってしまいたいと、こう思っておりますんでございます」
「まあ、お前さんはなんという感心な人でしょうね、わたしなんぞも、早くそんな心がけになればいいんですけれど」
「世間のことは、なかなか思うようにはならないものでございますよ。そうして、あなたは鐘撞堂で、何を御商売になすっておいでなさいますね」
 弁信はこう言って、お蝶にたずねました。
 女は、その返答には困りました。
「そんなことは何だっていいじゃありませんか。それでもね、わたしはお前さんのような人は大好きなのよ」
 ともかくも、ちょっと道ばたで行逢った人にしては、あまりになれなれしい物の言い方でありました。しかし、弁信は少しもその相手方を疑うようなことはありません。
「あ、鐘が鳴りましたね、あれは上野の鐘ですね」
 弁信がたちどまって、鐘の音に耳を傾けるようでしたが、お蝶にはそれが聞えません。
「あなた、何を言ってるんです、鐘も何も聞えやしないじゃありませんか、上野の鐘がここまで聞えるものですか」
「いいえ、あれは上野の鐘です、ほかの鐘とは音《ね》の色が違います」
 弁信は取合わないで、鐘の音を数えていたが、
「ああ、九ツです、も
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