大菩薩峠
安房の国の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)安房《あわ》の国

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)大宗匠|菱川師宣《ひしかわもろのぶ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「口+奄」、第3水準1−15−6]
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         一

 この巻は安房《あわ》の国から始めます。御承知の通り、この国はあまり大きな国ではありません。
 信濃、越後等の八百方里内外の面積を有する、それと並び立つ時には、僅かに三十五方里を有するに過ぎないこの国は哀れなものであります。むしろその小さな方から言って、壱岐《いき》の国の八方里半というのを筆頭に、隠岐《おき》の国が二十一方里、和泉《いずみ》の国が三十三方里という計算を間違いのないものとすれば、第四番目に位する小国がすなわちこの安房の国であります。
 小さい方から四番目の安房の国。そこにはまた小さいものに比例して雪をいただく高山もなく、大風の動く広野もないことは不思議ではありません。源を嶺岡
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