みんな拙者の仕業《しわざ》だ、あのとき以来、斬ろうとして斬り損ねたのは、お前ぐらいのものだ、このごろもどうかすると、お前を斬ってみたいとも思うが、お前がいないと世話をしてくれるものがないからな」
「冗談じゃない」
 米友は眼を円くして、
「恩に被《き》せなくってもいいやな、斬れるものなら、斬ってもらおうじゃねえか」
と言いながら、米友は枕屏風の上から、そろそろと竜之助の枕許《まくらもと》へ這《は》い寄って来ました。
「おっと、危ない」
 竜之助は寝ていながら、その片手を伸べて、枕許の刀を押えました。
「おい、先生」
「何だ」
「起きてくれ」
 米友は蒲団の上から、寝ている竜之助をゆす[#「ゆす」に傍点]ぶりました。
「聞きてえことがあるんだから起きてくれ、野暮《やぼ》を言うところじゃねえ、お前ほどの腕の者が、人を斬ったからって、それを今ここでかれこれ言うような俺《おい》らじゃねえんだ。斬っていい奴もあるし、斬られちゃ悪い奴もあるんだ、斬られて浮べねえ奴もあるし、斬られて冥加《みょうが》になる奴もあるんだ、はばかりながら宇治山田の米友も、槍にかけては腕に覚えがあるんだぜ、覚えがあるから、こう言っちゃ悪かろうわけはねえんだ。筋が立つところなら、百人でも千人でも斬りねえな、米友も斬りたくなったらずいぶん斬られて上げましょうさ。もし、筋が立たなけりゃ、おいらは、もうお前と一緒にいるのは御免だ、ことによったら、おいらがお前の命を取るぜ、あったらお前を、一人で、こんなところへ抛《ほう》りっぱなしにして置いて、のたれ死をさせるのも業腹《ごうはら》だからなあ」
 米友はこう言って、竜之助の枕許で腕組みをしました。
「済まない、友造どん、お前にはなんとも済まないことだが、筋が立つの立たぬのというたち[#「たち」に傍点]の仕事ではないので、拙者というものは、もう疾《と》うの昔に死んでいるのだ、今、こうやっている拙者は、ぬけ殻だ、幽霊だ、影法師だ。幽霊の食物は、世間並みのものではいけない、人間の生命《いのち》を食わなけりゃあ生きてゆけないのだ、だから、無暗に人が斬ってみたい、人を殺してみたいのだ、そうして、人の魂が苦しがって脱け出すのを見るとそれで、ホッと生き返った心持になる。まあ、筋を言えば、そんなようなものだが、このごろはそれさえ、根っから面白くなくなったわい、人を斬るのも、壁を斬る
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