、横着半分とで蒲団を被って応対をしていた金助は、ここに至って全くの恐怖に襲われて歯の根が合いません。
「吉原というのも、お前さん、そりゃ嘘だろう」
 女は、いよいよすさまじい声。
「どう致しまして、嘘ではございません」
「嘘を言うのに違いない、そうしてあの人をどこへか隠したのは、あれは御別家の奥さんという人に頼まれて、お角さんが手引をして、わたしに知れないように隠してしまったのだということを、わたしは前から、ちゃんと知っている。お前さん、どこへあの人を隠したか、それを言って下さい」
「ト、ト、飛んでもないことで。あの人にも、この人にも、わっしが隠すなんて、お隠し申すなんて、そんなことはございません、ございますはずがございません」
「お前さん、もしお金が欲しいならいくらでも上げるから、あの人を隠したところを教えて下さい」
「いいえ、お金がどうしようと言うんではございません……まあ、何が何やら存じませんが、あなた様にお怨まれ申しても、わっしは損でございますから、ようく事のわけを申し上げてしまいます。あの吉原で、わっしは神尾の殿様にお目にかかっただけで、そのお連れの方にはいっこう気がつきませ
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