らをしました。そのいたずらは鐘楼から釣鐘を下ろして、それを山門の外へ持って行って打捨《うっちゃ》ったのであります。翌《あく》る朝になって寺の坊さんたちが驚きました。誰がこんないたずらをしたか知らないけれども、とにかく、元の通りに鐘楼へ持って行ってかけねばならぬと、大勢して騒いでいるとなにくわぬ面《かお》をしてそこへ現われた拳骨和尚は、
「僅か一つの鐘を、そんなに大勢して騒いでも仕方がないではないか」
と言って、からからと笑いました。
「僅か一つと言うけれど、その一つが釣鐘だ、笑っていないで何とか知恵があったら知恵を貸せ」
「それはお安い御用よ、おれに茶飯を振舞いさえすれば、一人で片づけてやる」
この和尚の力のあることは坊さんたちがみんな聞いていたから、ともかく、茶飯を食わせてみようではないかということになって、充分に茶飯を振舞うと、和尚は軽々とその鐘を差し上げて、元の通り鐘楼の上へ持って来てかけてしまった。
その後、たびたびこの釣鐘が山門の外まで動き出すので、
「さては、あの物外《もつがい》めが、茶飯を食いたいばかりに悪戯《いたずら》をする」
一山の者が大笑いをしました。
この拳骨和尚が京都へ出た時分に、壬生《みぶ》の新撰組を訪ねて、近藤勇《こんどういさみ》を驚かした話はそのころ有名な話であります。
或る時、壬生の新撰組の屯《たむろ》の前へ、みすぼらしい坊主が、一蓋《いちがい》の檜木笠《ひのきがさ》を被って、手に鉄如意《てつにょい》を携えてやって来て、新撰組の浪士たちが武術を練っている道場を、武者窓から覗《のぞ》いていました。
出家とは言いながら、あまり無遠慮な覗き方であったから、忽《たちま》ち浪士たちに咎《とが》められてしまいました。
「我々の剣術を覗いて見るくらいでは、さだめてその心得があるのであろう、とにかく、道場の中へ入って一太刀合せてみろ」
強《し》いて和尚を、道場の中へ引張り込んでしまいました。
もとより名代《なだい》の壬生浪人のことですから、面白半分にこの坊主をいましめてくれようと、我勝ちに得物《えもの》を取って立ち向うのを、拳骨和尚は噪《さわ》げる色もなく、携えた鉄如意を振《ふる》って、瞬《またた》く間《ま》に数十人を叩き伏せてしまった。
この時、上座にいたのが、隊長の近藤勇でありました。この体《てい》を見て、
「これはこれは、驚き
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