た。ムク犬は常に変った様子もなく、米友を塀の潜《くぐ》り戸《ど》の方へと導くのであります。
米友が裏の潜り戸をあけて見たけれど、そこには誰も立っていませんでした。
米友は往来を見廻したけれども、雪が降っているばかりで、誰もいないし、通る人もほとんど稀れであります。
こいつは、やっぱり欺《かつ》がれたかなと思って、首を引込めると、ムクが勢いよく外へ飛び出しました。ムクがこっちから飛び出すと一緒に、向うの木蔭から蛇の目の傘が一つ出て来ました。雪は掃いてあるところもあり、掃いてないところもあるから歩きづらい中を、蛇の目の傘を傾《かし》げて、足許《あしもと》危なげにこっちへ歩んで来るのは女でありました。面は見えないけれども、その着物と足許で、まだ若い女の人であるということが米友にもよくわかります。
その人の傍へ飛んで行ったムクは、ちょうどそれを迎えに行ったようなものです。
誰だろうと思って米友は、その傘の中を早く見たいものだと思いました。
「米友さん」
と言って、すぐ眼の前へ来てから、傘を取るのと言葉をかけるのと一緒であった。その人の面《おもて》を見て、
「やあ、お前はお嬢さんだ」
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