で女軽業の一座を率いていた親方が、どうしてこんなところの侘住居《わびずまい》に落着いたかということが、米友には大いなる疑問であります。甲府へ興行に来た間違いからお君がひとり置き捨てられたのは、聞いてみればその筋道が立ちますけれど、この女親方がここへ落着いていることは、どうも米友には解《げ》せないのであります。まもなく、お角はお湯に行くと言って出て行きました。やがて女中が二階へ来て、あなたもお湯においでなさいましと言いました。米友は、湯はよそうと言いました。それではお床を展《の》べてあげましょうと言って、次の間へ寝床をこしらえて、屏風《びょうぶ》を立て、燈火《あかり》に気をつけて、お休みなさいませと言いました。
「いったい、ここの旦那というのは何を商売にしているんだい」
「絹商人《きぬあきんど》でございます」
米友はなるほどと思いました。郡内にも甲府にも絹商人ではかなり大きいのがあるから、何かの縁でそれに見込まれてあの親方が囲われたな、と米友はそんな風に感づいて、多少|腑《ふ》に落つるところはあったけれども、袖切坂の上でお角が言った異様な一言《ひとこと》は、どうも米友には解くことができ
前へ
次へ
全207ページ中123ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング