の、早く連れの者に沙汰をして」
「へえ、よろしうございます、いま使に出した野郎が、もう帰って来ますから、帰って来たらすぐに飛ばせてやりますでございます、お乗物なんぞは、ここで一声|怒鳴《どな》れば御用が足りるんです。嬶《かかあ》でもいるとお髪《ぐし》やお召物のお世話をして上げるんでございますけれども、まあそのうちに嬶も帰って参りますから」
「髪や着物などはかまいませぬ、あのお君が帰って来さえすれば、直ぐにお暇《いとま》をして屋敷へ帰りたい、早くあの子へ沙汰をして」
「へえへえ。どうも困ったな、いつも二人や三人はゴロゴロしているくせに、今日に限って嬶までが出払ってしまうなんて。と言って俺が出向いて行けば家は空《から》になるし……野郎どもも大概《てえげえ》察しがありそうなものだ、ぐずぐずしていると日が暮れちまうじゃねえか、日が暮れちまった日にゃあ、お嬢様をここへお泊め申さなけりゃならなくなるんだ。そんなことにでもなってみろ、お屋敷でどんなに心配なさるか知れたもんじゃねえ」
市五郎は焦《じ》れ気味で独言《ひとりごと》を言っているに拘《かか》わらず、自分は長火鉢の前へ御輿《みこし》を据えて、
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