ったのだ。と言うて手を束《つか》ねて捕われるのも愚《ぐ》な話、窮鼠《きゅうそ》かえって猫を噛むというわけではないが、時にとっての非常手段を試みるよりほかはない。その非常手段というのは、ここへ逃げ込んだのが縁、何者か知らないが当家の主人を叩き起し、手詰《てづめ》の談判をしてみるのだ」
南条はこう言って、強い決心を示して五十嵐を見ました。
「手詰の談判というのは?」
五十嵐もまた、南条のいわゆる非常手段の決心を呑込んでいるのでしょう。ただ手段の細かい方法を聞かんとするらしくあります。
「当分の間、我々を当家にかくまってくれるように、事をわけて歎願してみるのじゃ」
「しかし、それを聞き入れてくれぬ時には?」
「その時には、この宇津木だけを当家にかくまってくれるように頼み、我々は相当の路用と衣類とを借用して尋常に逃げてみるのだ」
「もしまた、それを聞き入れなかったその時には?」
「その時には気の毒ながら、最後の手段を取るよりほかはない、最後というのは血を見ることだ」
「よろしい、その決心で働こう。当家の主人という者はどこに寝ている、ほかの者には取合わず、まず用心して忍び、その主人の寝間を突留めねばならぬ」
「さあ、その用意をしろ、何か得物《えもの》はないか、あたりを探してみるがよい」
二人は同時に立ち上りました。そうして裸蝋燭《はだかろうそく》は卓子の上から南条の手に取り上げられて、
「おい、宇津木、聞いていたろう、いま話したようなわけで我々は、これから非常手段の実行にかかるのじゃ。うまくいけばよいけれど、多分うまくはいくまいと思う。仕損じたらそれまでだ、我々は斬死《きりじに》するか、或いは身を以て逃れるか二つに一つじゃ。自然、君にも充分に手が届かぬかも知れぬ。ともかく、君はこうして待っていろ、病気でもあるし、本来、君には何の罪もないのじゃ、君を捕えに来たものがあったら、その時、この場でよく申し開きをするがよい。いいか、眠っているうちに何者にか連れ出されたと、こう言ってしまえば理も非もない。また我々が首尾よく抜け出しさえすれば、明日とも言わず迎えの工夫をする、どっちにしても落着いて寝ていることが肝腎《かんじん》じゃ」
この声を聞いて、寝台の上に能登守の筒袖羽織を被《かぶ》せられて寝ていた宇津木兵馬が、起き直ろうとして動きかけましたが、かの廊下の扉の方にあたって、トー
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