大菩薩峠
伯耆の安綱の巻
中里介山

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)白根《しらね》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)険山|峨々《がが》として

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「虫+原」、第3水準1−91−60]

 [#…]:返り点
 (例)望用何愁[#レ]晩《ぼうようなんぞおそきをうれへん》
−−

         一

 これよりさき、竜王の鼻から宇津木兵馬に助けられたお君は、兵馬恋しさの思いで物につかれたように、病み上りの身さえ忘れて、兵馬の後を追うて行きました。
 よし、その言い置いた通り白根《しらね》の山ふところに入ったにしろ、そこでお君が兵馬に会えようとは思われず、いわんや、その道は、険山|峨々《がが》として鳥も通わぬところがある。何の用意も計画もなくて分け入ろうとするお君は無分別であります。
 ムク犬は悄々《しおしお》として跟《つ》いて行きました。そのさま、恰《あたか》も主人の物狂わしい挙動を歎くかのようで
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