》をせぬ」
と言って咎《とが》めると、通りかかった男が、
「あ、あの通りでございます」
青くなって指さしをしたから、その指さしをしたところを見ると、欄干に細引が結えつけてあって、それから釣忍《つりしのぶ》を吊《つる》したように何か吊してあるようです。何が吊してあるのかとよく見定めると人間が一人、四ツ手に絡《から》んで高さ十七間の猿橋の真中から吊り下げてありました。
「こりゃ怪《け》しからん、誰がこんなことをした」
「鳥沢の親分がこういうことをやりました」
「鳥沢の親分とは何者だ」
「鳥沢の粂《くめ》という、このあたりに聞えた親分でございます」
「何者であろうとも、斯様《かよう》な惨酷《さんこく》なことをするのを見逃しておくのは何事じゃ、ナゼ助けてやらぬ」
「粂が申します、これを解いてやった奴があれば生かしちゃ置かねえとこう申しますから、正直な土地の人は慄《ふる》え上ってまだ手をつける人はございません」
「憎い奴じゃ、上《かみ》を怖れぬ仕方、早く引き上げてやれ」
与力同心は仲間小者と力を合せて、この細引にかけて吊してあった人間を引き上げてやりました。
引き上げてみると、もう真蒼《ま
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