それと聞いて道庵先生が初めて気がつきました。この女どこから聞き出して来たか、もうあの娘のことを知っている、そうしてワザとこんなふうに綾《あや》をかけて持ち出したのだなと思いました。
それと共に道庵がフト考えついたのは、この女もずいぶん腑《ふ》に落ちないところはあるけれども、立入って人の世話をしてみたがったり、ぞんがい人を調戯《からか》ってみたりするところに、いくらか道庵と共通のところがあって心安くしているから、女は女同士で、いっそ、この女に頼んだらどうだろうかと、道庵は道庵なりに見当をつけた事件がありました。
「ははあ、あの娘のことか。どこから聞いて来たか知らねえが、お前さんにそう言われると、ははあなるほどというほかはないのだ。実は俺もその用談を持ちかけられて始末に困ったようなわけだが、いかがでございましょう、お前さんの方でなんとかお考えがございましょうか」
道庵はこう言ってお絹に相談を持ちかけてみると、お絹は二つ返事でその娘を預かろうと言い出しました。
道庵はそれでホッと息をついて、お絹を信用して百蔵から頼まれた娘をそっくりその方へ廻すことにしてしまいました。
娘を預けよ
前へ
次へ
全135ページ中87ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング