台へ乗り出すにはうってつけの役者でしたから、一同がその名乗りを聞くと、やんやと言って喝采《かっさい》しました。道庵先生の得意|想《おも》うべしで、嬉し紛れに米俵を引いて来た大八車の上へ突立って演説をはじめてしまいました。
「さあ、皆の衆、俺は御存じの通り長者町の十八文だ、今度、皆の衆が貧窮[#「貧窮」は底本では「貧弱」]組をこしらえたというのは近頃よい心がけで俺も感心した、俺に沙汰無しで拵えたことがちっとばかり不足といえば不足だが、それは感心と差引いて埋合せておく。いったい物持というやつが癪にさわる、歩《ふ》が成金《なりきん》になったような面《つら》をしやがって、我々共が食うに困る時に、高い金を出して羅紗《らしゃ》なんぞを買い込みやがる。そこで皆の衆が物持から米や沢庵を持って来てウント喰い倒してやるというのは、天道様《てんとうさま》の思召《おぼしめ》しだ、実にいい心がけである、賛成!」
煽《あお》ってしまったからたまらない。
「やんや」
「やんや」
四方から喝采が起る。道庵先生、いかめしい咳払《せきばら》いをして、
「これから俺が先達になってやるから安心しろ。しかし俺は大塩平八郎で
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