のないものと見立てるという例の形而上学的な態度より以上のものを、含んでいる。その点を今注目しなければならない。単に自然物や或る種の社会関係が不変であるという思想は、云わばまだその不変物の真の意味での絶対性[#「絶対性」に傍点]を、即ち絶対的権威や圧力を、主張することではない。例えばキュヴィエがジョフロア・サン・ティレールに反対して夫々の生物の種の不変性を主張した時、彼は必ずしもこの種を絶対的な権威ある存在と考えたということにはならぬ。処が例えばこの夫々の種が神の造り与え給うたものであるが故にとか、イヴの腹に初めから仕込まれてあった限られた一定の数のものであるが故にとかいう理由で、種の不変性を主張するならば、その時この種は何等か絶対的な権威[#「権威」に傍点]をもったもの、真に絶対的なもの、となる。之を実証的に覆した進化論も、この絶対的権威を覆したと考えられる限りに於て、初めて批難[#「批難」に傍点]や賞讃[#「賞讃」に傍点]の対象となるのだ。――つまり道徳の問題となる時初めて、不変者は真の意味での絶対者となる。神聖にして不可侵なもの、批評を加えるべからざるもの、となるのだ。
だから道
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