見出すことが出来るが、吾々青年が日本語で話す日本映画よりも寧ろ言葉のよく判らない外国映画の方を面白がるということは、吾々の生活意識の新しさ清新さが、この日本的現実に満足していないことを示すもので、日本の資本主義が英米仏独の先進資本主義への歩みに他ならず、やがてはソヴェート連邦的経済機構への必然を有っているという客観的事情が、若いジェネレーションへ知らず知らずに反映していることに他ならない。決して外国の監督や俳優の素質が高いばかりではなく、その高さが判るということが一つの道徳的向上の動向を示しているのだ。ただブルジョア映画そのものが現在の風俗の自己批判を敢えてなし得ないという宿命から、吾々はこうした映画から何等道徳批判の積極的な結果を期待出来ないまでだ。風俗を見ることは、之に泥《なず》むことに終る方が多いというのが、風俗感覚の芸術的弱点だ。夫は一般に感覚主義や又狭くエロティシズムの弱点ともなるものである。映画中の大衆映画とも云うべきチャンバラが受けるのは、一種のエロティシズムに帰着する舞踊的(或いは寧ろギムナスティックにぞくする)風俗感覚によると共に、之に基く封建的道徳・封建的風俗感覚へ由来することは今更説明するまでもないだろう。――で映画の大衆性[#「大衆性」に傍点]は、社会人の普遍的な感覚(現実感・風俗感・エロティシズム其の他)に訴えて、之をいつの間にか道徳・道義感・社会思想に移行させるという処に、その本質を横たえる。映画館は安くて誰でも皆と一緒に見られるから、というような処にばかり映画の大衆性があるのではない。又映画は何本でも複製が出来てどこへでも持って行けるという処にだけその大衆性の根拠があるのではない。
 私は以上、なぜ映画が面白いか、ということを分析して、それを映画固有のリアリズムに求めたわけである。つまり現実のリアリティーが、そのままで[#「そのままで」に傍点]芸術的リアリティーとなる処に、映画固有なリアリズムがあるのであって、同時にそこに他の芸術の真似の出来ない大衆的な満足感を与えるものが横たわっているというのである。之は映画がもつべき本来の劇的又文学的価値とは一応別で、それ以前の先決条件に他ならないのだが、この条件を離れて映画の劇的文学的本質を論じることは、恐らく映画を劇や文学に解消して了うことになりはしないかと考える。世界の現実を見聞きすると同様にスクリーンの上で見聞出来るということが、それだけの単純な判り切ったことが、映画固有の面白さを与えるらしい、という結論なのだ。映画の劇的機能や文学的価値については今論じることはひかえる。また観照者の立場を離れて映画製作の技術的・経済的・社会的・諸条件を省ることも私には今は不可能だ。これ等の観点を離れても、映画の大衆性を或る程度まで説明出来るように思う。
[#改頁]

 3 文芸と風俗

   一 文芸時評の改組[#この行はゴシック体]

 読者も御承知のように、最近、新聞雑誌その他における文学批評の形式というのが、やかましく議論されている。しばらく前には局外批評が善いか悪いか、それから又匿名批評が善いか、悪いか、がお喋りの流行(?)だった。全く「善いか悪いか」が喋られたので、「何であるか」が喋られたのではない。つまりそれほど子供らしくまた道徳屋的に喋られたわけだ。
 しかしこのお喋りはただのお喋りとして片づけることの出来ないものを持っていた。なぜなら問題は専ら文学がどうやったら広い世間へ出られるかということだ。或いは、いわば女子供向きの所謂文学なるものを、どうしたら世間の大人にとっても必要なものにすることが出来るか、ということだ。少し語弊はあるが、そういえば端的だと思う。
 やがて批評形式の論議は一転して、文芸時評の形式をどうしようかということにもなって来た。これも大部分はお喋りみたいに見えるのだけれども、併し矢張り、どうやったらば文学という温室産のモヤシを社会の汐風に耐え得るものにするか、という興味が根本動因をなしている。文芸時評は専門家の楽屋のぞき的な作品批評や作家批評ではなく、読者に作品や作家の社会的意義を紹介するような大衆的な形でなくてはならぬとか、文学の色々な現象が持つ文学外的な又は文学前的な思想や社会性を摘発するような形の時評にしなければならぬとか、色々にいわれている。
 と同時に、文芸時評の時評[#「時評」に傍点](即ち月評[#「月評」に傍点])という形式もまた段々疑問にされるようになって来た。それというのもこれまでの月評は月々の雑誌に現われる作品についての所謂「作品評」(あの作品は感心した、あの作品は説話体だ。あの作品は化物と格闘している、等々という所謂作品批評[#「作品批評」に傍点]?)に過ぎなかったということへの不満からで、必ずしも月評という様式が
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