秀な子供を収容するにはあまりに数が多すぎる[#「多すぎる」に傍点]ために、或いは相当優秀な子供の数が中等学校の数の割にあまりに少ない[#「少ない」に傍点]ために、良い学校と悪い学校との対立の余地が生じているわけで、もし仮に無産大衆の圧倒的な多数の内から之だけの数の子供を選ぶと空想するならば、悪い学校を実現するだろう素質の劣った今日のブルジョアや小市民の子供などは、初めから問題になれないから、入学志願者の偏在などは、起き得ないだろう。つまり鈍才でも資本主義的市民権を有っている子弟だというので、社会が教育を志すことから入学難が生じるのである。――教育から階級的意味が消え失せる時には、所謂秀才教育からもその弊害が消え失せるだろう。今日の入学志願者の偏在は金や資本の偏在のようなもので、大きく云えば資本制自由社会の必然的な一結果だとも云えるのである。
 尤も特に女の児の場合などになると之にもっと複雑な事情が加わる。と云うのは良い学校という意味にもう少し複雑なものが加わるのである。今日の処、女学校は普通、嫁入り仕度の一つに数えられているのは否定出来ないようだ。中産階級層以上の教育ある男の妻となるには、その知識はとも角として(女学校の授ける知識は大して社会的通用性から云って問題にならぬ)、その趣味やイデオロギーから云うと、どうしても少なくとも女学校卒業者でなくてはならぬ。処が、男の方は少なくとも先頃までは、主に頭の能力によって出世も出来、世渡りも出来、就職も出来ると想定されていたが(実は必ずしもそうではなかったのだし、又益々そうでなくなりつつあるのだが)、女の方の出世であり世渡りであり又就職である嫁入りは、今の処何と云っても、当人の知能的能力ばかりでなく、容色や品や乃至は実家の資産や地位によって決定される部分が多い。そこで、自然と良家の娘が集まる学校が、結婚率が高くて結婚年度が低い学校となり、女学校を嫁入り仕度に数えている家庭にとっては、そうした学校が良い学校となる。知能上の素質の高い学校に這入れなくても、良家の子女の通う学校ならば、見栄から云っても女らしい野心から云っても満足だということにもなるのである。だがそうは云っても、同じ嫁を貰うならば頭のいい方がいいに決っている。処が女は女学校以上の学校に進む者が男程多くないのであって、仮に素質が善く学資に不自由しなくても社会的な又家庭的な惰性で、上の学校を望まない者が多いのだから、この社会では女の頭の良し悪しを間接にテストする標準が甚だ不足なのだ。それだけ女学校の成績というものが見合の一部分となるのだが、それは結局出身女学校の出来る出来ないの評判に帰着するのが現状のようだ。そうなるとやはり入学試験落第率の高い出来る女学校が嫁入り仕度としても概して良いわけになる。無論そういう「出来る」女学校も嫁入り資格を看却する筈はない。出来るだけ良家の子女の内から優良児を選ぼうと考える。
 こうして一般に女学校では、入学志願者の父兄の資産調べには抜け目がないようだ。折角の卒業生も無産者の娘では碌な処へ嫁にも行けまい、卒業生夫人団に仲間入り出来ないような才媛は学校としてあまり利用価値はない。私立の女学校になると、事業家である校長先生は何のかんのと生徒に無心を仰せつける。女の生徒は男の生徒のように悪たれでなく批判的意志がなくて従順だから問題はないが、父兄母姉団に充分な資産がないと問題が起きるし、金が集まらない。之に反して父兄母姉団の大勢が有産者ならば、今度は父兄母姉も生徒も競って献金して呉れる。入学者の資産状態を厳重に調査する必要が益々あるわけだ。
 男の特殊な学校でも資産状態や家庭の状態までを調査する。之は夫々の社会圏の幹部となるに相応わしい貴族としての資格を調査するわけである。帝政時代のロシアの将校はその殆んど大部分が貴族であって、この貴族という社会的支配権の尤もらしさを、軍隊の指揮権にまで利用したのであるが、それに似た現象はどこの国にも珍しくない。そして、「恒産なきものは恒心なし」という支那の聖人の唯物論を逆用しようとするこの現象は、今日では一般の中学校の入学許可に際してもなくはないようだ。例えば前科者の子弟は何と云っても普通の子供よりも入学に不利だろう。無職の父兄の子弟も亦そうだ(悪い意味に於ける無職というのは社会的定位を占めないことで、即ち社会では可能的な犯罪性を意味して来つつある)。思想傾向[#「思想傾向」に傍点]を考査するような場合も結局はこうしたものに帰着するのである。女学校などになれば愈々この点が深刻に又神経質になるので、現に、心中したり婦人関係で問題を起したりした有名な人物の娘は、体よく退学させられている位いだ。旧くは女優になったために同窓会から除名された人もいた。嫁入り仕度の最中に、こういう不
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