部の仕事と思い違いしていたとすれば、対外折衝は軍部のやることだというような考えが閣僚自身の習慣になっている程に、外務省側の独立行動は珍しかったからに過ぎぬだろう。
 併し之を軍部の仕事と思ったのは日本の迂濶な閣僚達だけではない。肝心な唐次長が、軍部の意向を聴取するために、南京へ帰京する予定を延ばして在上海の日本武官を訪問して歩いている。特に磯谷少将は蒋介石氏直参と称される張、陳、両氏との三時間に亘る会見に於て、支那の不心得を懇々と説いたと新聞は報道している。無論こう云っただけでは軍部がこの交渉に干与しているとも云えるしいないとも云えるわけだが、折衝の名義人は外務省でも、外務省の独立な折衝だと云えないことは明らかだ。軍部の監視の下に外務省が衝に当っていると云った方が正直な云い方なのである。
 無論××××××××××事件であるから中国側に苦情のありようはない。中国側は、党部の名に於て、日本側の要求全部を容認することとなったのだが、之に対して例の磯谷少将は語っている。「今回の事件に関し中央党部はわが方の直接要求条項を逐次履行しつつあり、稍誠意の認むべきものがあると考えるが、軍としては、有吉
前へ 次へ
全402ページ中356ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング