期し得ないことではない」。――これによると、河上博士という一人の左翼学生が弾圧と骨肉愛とで遂々「改悛」でもしたように見える。博士はおとなしく勉強して、大学でも卒業したら親爺の銀行か何かに勤めるもののようである。博士の存在をこんなに大急ぎで小さく見せるというこの確実な手腕は、一寸小憎くらしくはないだろうか。浅墓な世間はこれで博士をスッカリ軽蔑し、そうしてスッカリ安心するだろう。
三、交叉点
東京で、現職の巡査が、巡査という地位を利用して、管内の人妻と通じているのを、その夫に見つけられて、他の交番でつかまったという出来ごとがある。それから暫く立って岡山県に之も現職巡査の銀行ギャング事件が発生した。制服を着用して支店長に金庫へ案内させておいてその支店長を絞殺して三万円あまりの金を取ったという事件である。三月以降警視庁管下だけでも、現職巡査が拐帯、泥酔暴行、賭博現行、収賄、等々で挙げられたのは七八件に止まらないのである。之では全く警察の威信が疑問にならざるを得ないだろう。世間では之を警官の「素質低下」によって説明出来ると思っているらしいが、それにどれだけの実証的な根拠があるか知らない。警官の素質が低下するのは、一体好景気の結果だと考えられるが、この頃のような不況時代には、却って警官の素質は良くなっている筈ではないかと思う。素質は良くなっているのだが、素質をよくした不況というこの同じ原因が、良い素質にも拘らず警官の各種の犯行を産んでいるのではないかと思う。泥棒やスリが増えるのと××して、××の犯罪者だって増すだろう。巡査と犯人とは決して××な存在ではないのだ。
巡査だって普通の人間だから、どんな間違いや犯罪を犯さないとも限らない。警察当局の威信というような問題を別にすれば、ここには何の不思議もないのだ。まして巡査はあまり××××××××いる方ではないだろうから、「犯人」候補者(!)たる××××××××××××ものではない。尤も彼等が階級的に行動する時は決して自分の側の階級にはぞくさないが、そして為政者達はそういう矛盾に気付いたためか、この頃盛んに警官の身分保証や、警察官後援会の設立を計画しているのだが、続々犯行者を出している処だけから見ても、立派な「×××」の味方に外ならぬ。
ただ世間で警官の犯行を特に不埒として感じるのは、巡査が巡査たる地位を逆用して犯行に利
前へ
次へ
全201ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング