うではないのだ。七月二日有吉大使は、外務省の回訓に基いて、唐外交次長と会見し、我が要求を明示して正式の抗議を通告した。その内容は先にも述べたような恐れ多い理由によって、必ずしも明らかではないが、併し問題は、この事件が北支問題とは多少異った特色を有っていることが明らかだという処に存する。
 広田外相は五日の閣議に於て云っている、「今回の事件は先の北支停戦協定違反事件と異り、純然たる外交交渉案件である故、専ら外交当局をして折衝せしめている。従ってこの交渉に軍部が干与しているものの如く視るものがあれば、それは大きな誤解である」云々。林陸相自身も又之に相槌を打って「今度の問題は外相の云わるる通り、純然たる外交問題である故、軍部が直接積極の行動に出ずべきものではない。よって東京並びに出先の軍憲に対しても、この旨を厳に訓達しておいた、従って出先軍憲の意見が新聞等に表われていても、これは聞かれる故個人的意見を陳べたもので、軍部としての意見を代表したものではない」と云って他の閣僚の諒解を求めている。――なる程云われて見れば尤もで、今度の事件に限って珍しく外務省の係りであるらしい。それを他の閣僚までが軍部の仕事と思い違いしていたとすれば、対外折衝は軍部のやることだというような考えが閣僚自身の習慣になっている程に、外務省側の独立行動は珍しかったからに過ぎぬだろう。
 併し之を軍部の仕事と思ったのは日本の迂濶な閣僚達だけではない。肝心な唐次長が、軍部の意向を聴取するために、南京へ帰京する予定を延ばして在上海の日本武官を訪問して歩いている。特に磯谷少将は蒋介石氏直参と称される張、陳、両氏との三時間に亘る会見に於て、支那の不心得を懇々と説いたと新聞は報道している。無論こう云っただけでは軍部がこの交渉に干与しているとも云えるしいないとも云えるわけだが、折衝の名義人は外務省でも、外務省の独立な折衝だと云えないことは明らかだ。軍部の監視の下に外務省が衝に当っていると云った方が正直な云い方なのである。
 無論××××××××××事件であるから中国側に苦情のありようはない。中国側は、党部の名に於て、日本側の要求全部を容認することとなったのだが、之に対して例の磯谷少将は語っている。「今回の事件に関し中央党部はわが方の直接要求条項を逐次履行しつつあり、稍誠意の認むべきものがあると考えるが、軍としては、有吉
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