或る年の博士製造高が同年の同学部の卒業生(即ち医学士)の数を遙かに超過したという珍現象をさえ惹き起した。だが医学博士の数が多いということは、日本の医学の発達の証拠にこそなれ少しも恥しいことではない。第一官立の医学部乃至医科大学だけでも、他の学部乃至単科大学に較べて、その数が非常に多いということを忘れてはならぬ。その多い各大学から卒業する医学士の数は又、決して文学部や農学部の比ではないのだ。而もこの卒業生の大多数が、副手や助手として、又大学院学生として、研究室に残る。研究室に這入ったが最後、特に先生と喧嘩でもしない限り、多分大して贈賄しなくたって研究室に掛っている札の順序に、右から自然に博士になって行く。
大学を出なくたって、どこかの医専でも出てすぐ大学の研究室の研究生になって、ドイツ語の勉強傍々やって行けば、非常に早く医学博士になれる。之なら二十六七歳で大丈夫博士になれる。但しあまり良い処へ就職の世話はして貰えないという覚悟が必要だが開業にはさし閊えない。
だから医学博士が多いということは、日本の医学がこれ程までに組織的に発達していることの証拠であって、大いに慶賀すべきことでなくてはならぬ。大学を出てから三年間も夜間診療程度の内職は別にして何の職業にもつかずに、朝から晩まで研究室で研究すれば大抵の馬鹿な人間でも一人前の研究結果は纒まるもので、それだけ学資も掛る代りには、専門家としての勉強も自然とせざるを得ないわけだし、又一般的な常識も多少は進歩するだろうから、立派に学位に値するだけのものはあるのである。卒業生にアルバイトの意識が低く、教授に年の功を以て学問を計ろうとする癖があるような、他の専門に較べれば、日本の医学はたしかに進歩しているし又進歩するように出来ている。
だが何だってこんなに日本の医学は「進歩」して了ったのかということになると、夫は又別問題だ。即ち、何だってこんなに沢山の人間が医学博士になりたがるのかは別問題だ、それは云うまでもなく医学博士というのが博士の内で最も高価な価格を約束するレッテルだからである。散々使った上で医学博士の学位を返上しようとした人もいたが、夫は又逆手であって、普通には医学博士のレッテルを手に入れるためにはみんな一族の資産を傾けて命がけの努力をするのだ。だから医学博士は凡て立志伝中の人物と思えば間違いはない。医学博士にボラれたと
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