に注目しなければならぬ。娯楽の大衆的発達と社会に於ける普遍的通用とは、社会そのものの健康と建設性との徴しの一つだ。吾々は世界に於てその実例を有っている。
 最近民衆の自己省察にとって、屡々伝統の問題が取り上げられている。伝統の民衆による自己検討は益々進められて行かねばならぬ。だがそれと共に、民衆はみずから娯楽についても考察を進めて行く必要があるのだ。民衆は娯楽の社会的権利をもつ、否、娯楽の義務をさえ有つ。而も娯楽は民衆の自主的なものでない限り、娯楽というに不充分であろう。娯楽とは、世間の不用意な通念とは多少異って、民衆の自主的な民主的な、要求を意味しなければならなかった。いや、やがてそういう要求が大衆的に起こらねばならぬ。上からの文化統制――それは勿論娯楽の統制に対しても異常に熱心であることを忘れてはならぬ――と対比して、民衆は自分みずからの娯楽の機能について思を致さねばならぬだろう。娯楽欄・娯楽雑誌・娯楽の時間・其の他に於て今日与えられている所謂娯楽は、暇つぶしや慰安ではあっても、娯楽とは云うことが出来ない、という一つの根本関係を理解してかかる必要があろうと思う。
 娯楽について、その社会性と積極性という二つの特徴を今日強調したい所以である。
(一九三七・七)[#地から1字上げ]



底本:「戸坂潤全集 第四巻」勁草書房
   1966(昭和41)年7月20日第1刷発行
   1975(昭和50)年9月20日第7刷発行
入力:矢野正人
校正:小林繁雄
2001年8月23日公開
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