はない。のみならずこの条件を充さないものでも尚空間表象と考えられるものを挙げることも出来る。空間の定義とすら見ることは出来ないと思う。ベーンは――第二種類の一例――運動感覚を用いて空間表象を説明した。時間表象に於ては運動感覚が触感と結び付いていないか或いは結び付いているにしてもその触感が不変である。然るに空間表象に於ては之に反して運動感覚に触感が必ず結び付いていて而も之が変化する。空間とはこの変化する触感が一定の順序を形造りそれが運動を逆にすれば逆となり運動を繰り返せば繰り返す、ということに外ならない、という(S. 44)。即ちベーンの考え方がヘルバルトの夫と異る点は運動感覚を用いたことと、時間と空間との区別を明らかにしたこととにある。併し運動感覚を導き入れて考えるにしてもヘルバルトに対して与えた批評は矢張りそのまま繰り返される筈である。又時間と空間との区別は与えられるにしても、例えば音の感覚の系列と空間との区別はこの考え方に依っては説明されない。それ故私はベーンに対してもヘルバルトに対すると全く同じい批評を繰り返すの外はない(S. 55)。第三種類の考え方の例としてはヴェーバーを採ることが出来る。空間感覚は彼によれば「一般感覚」でなければならぬ。ヘルバルトが任意の一つの感覚内容によって、又ベーンが運動感覚を基礎として、夫々空間の発生を説明しようと企てたのとは趣を異にして、空間とは特別の神経或いは感覚内容の特別の一群に基くものではなく、一般的に視神経と触神経とに於ける神経の固有な配置に由来するものである、と説く。感覚圏の説が之である(S. 77)。即ちヴェーバーによれば、先ず感覚内容が与えられてあるとして、この感覚内容がその内に含まれてはいなかった処の特殊の配置に分布され、この配置によって空間表象が生じるというのである。処でシュトゥンプフは次のように論じる。併しこの配置に「よって」とは何を意味するのか。配置そのものは解剖的な関係に過ぎない。之が心理的な空間表象であるというのではない。とすれば「よって」とはこの配置が原因となるという意味の外にはない。処が物理的な刺激は原因となって起こし得るものは空間ではなくして感覚内容の性質――赤いとか冷たいとかの――に過ぎない。それ故この配置が空間表象の原因となるには物理的な刺激が原因であるという意味でのように直接な原因であることは出来ない。即ち今の場合の原因は物理的な原因ではなくして心理的な仲介者を意味しなければならぬ。シュトゥンプフは之を「心理的刺激」と名づけた。然るにシュトゥンプフの証明しているようにこの心理的刺激という概念は結局許すことの出来ないものなのである(S. 93 ff.)。従ってヴェーバーの試みも依然空間表象の発生を説明することは出来ない。却ってそれは空間表象なるものを始めから想定した上で加えられた説明に過ぎぬと云わねばならぬ。さて私は四つの種類の考え方の内最初の三つのものの正当でないことをばシュトゥンプフと共に知ることが出来た。共通の欠点は何れも空間表象の発生を説明するに当って寧ろ却って空間表象を予想しているという循環にある。さて之は次のことを裏書きするものである、空間表象の発生は到底説明することが出来ない、云い換えれば空間表象は根源的でなくてはならない、ということ。
シュトゥンプフは更に第三の種類の考え方の一例としてロッツェを批評する。シュトゥンプフの解釈に従ってロッツェの所謂局所徴験を一言しよう。例えば種々の色が空間上何処かに位置を占めるというようなことはどうして起こるか。解剖的に位置を異にした神経が刺激を受けるからであるとするのは云うまでもなく充分ではない(これはヴェーバーに対する批評を見れば明らかである)。ロッツェは異った位置――それは網膜の上の点によって代表される――には夫々その位置に固有な感覚乃至は神経過程が備わっているとする。之が局所徴験に外ならない。局所徴験が眼球の適当な運動や或いはその運動の感覚や乃至は運動しようとする努力などによって表わされるというが、何れにしても定位 Lokalisation を与える原因がこの局所徴験なのである。之がロッツェの思想である。さてシュトゥンプフの解釈によればこの定位がとりも直さず空間表象に外ならない。従って局所徴験は空間表象の「原因」であることになる。而も「原因」はヴェーバーの感覚圏の場合と同じ理由によって心理的刺激という困難な概念に帰着して了う。依ってロッツェの考え方も空間表象の発生を説明するには不適当である、というのである(S. 86 ff.)。之に対してロッツェ自身次のように云うて反駁している、「私の試みは感覚の定位[#「定位」に傍点]ということに終始するのであって」「吾々が如何にして空間表象に来るか[#「空間表象
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