があるらしい。
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* 常識はパラドックシカルな性質を持った知識である。だからこの言葉を何か判ったようなものと仮定して使うことは、甚だしい混乱を惹き起こすだろう。――後に之を分析する。
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 併し一定の歴史社会的主観に由来するイデオロギーが、科学の方法の最後の決定者であることは出来ないことは、すでに述べた。否、この第一次の常識としての世界観そのものすら、そのままでは科学の方法を終局的に決定することは出来ぬ。現実の客観的な実在世界が、実は一定の方法を科学に向って指定するのだった(ダーウィンの進化論はイデオロギーよりも寧ろ農業技術の発達に依存している)。処がこの際、夫々の科学は世界の夫々の部分をさし当りその研究対象にするのであったから、科学は、例の常識としての世界観の出来上った全体的な統一をば却って一旦破壊した上で、自分にとって必要な限りの現実界の部分に照応しているだけの世界観の部分を取り出し、之を科学的方法的に仕上げることになる。従ってこの際、イデオロギーも亦、全体を以て作用出来ずに、単に部分的にしかこの仕上げに参画出来ない
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