Sく別だ。自然と社会とは一つの歴史によって貫かれている。自然が歴史的発達によって社会を生み、そこで初めて自然と社会とが平行したり交渉し合ったりすることになったというわけである。――で、科学の分類[#「分類」に傍点]はこの客観的な関係から導かれねばならない。そうではなくて偶然眼の前に与えられた諸科学の総体を、アトランダムに分類したり、又は偶然時事的に問題化した某々科学に中心を置いたり、或いは相当勝手な認識主観から科学の方法を導いて之を分類の原理にしたりすることから、科学論乃至科学方法論の収拾すべからざる乱雑さが発生したのである。

 かくて吾々は、最後に科学を自然科学[#「自然科学」に傍点]と社会科学[#「社会科学」に傍点]とに分類することになるのである。之は云うまでもなく単に夫々の方法の如何に着眼して与えられた分類ではない、そうした主観的な、従って結局に於ては勝手な、根拠の代りに、実在そのものの歴史的過程に於ける構造に基いて与えられる。吾々は科学の方法によって初めて科学を分類し得るのではない、却って、科学が、その事実上の歴史的発達に応じて夫々の実在単位を切り取ったその実在単位を、実在そのものの秩序に従って整理・統一・区画して、これから却って科学そのものの単位を導き出し(即ち夫が分類だ)、そうした上で、夫々の科学に共通[#「共通」に傍点]な方法を取り上げ、この共通方法が夫々の科学に於て取る異った[#「異った」に傍点]形態について考察しよう、とするのである。之が吾々の科学分類[#「科学分類」に傍点]と科学方法論[#「科学方法論」に傍点]との形式でなければならぬ。
 後に自然科学論と社会科学論に於て見るように、例えば数学[#「数学」に傍点]は一応経験的な科学ではないにも拘らず、或る理由によって自然科学に従属させることが出来るし、又例えば心理学は(心理学程領域によって性質の異ったものはない、個人心理学と社会心理学・民族心理学、実験心理学と内省心理学)、一部分は自然科学に一部分は社会科学に帰属するだろう。歴史学や文化理論は云うまでもなく社会科学に含まれる。そして哲学はすでに述べたように、この両者に於て集約された一切の科学の、含蓄ある意味に於ての論理[#「論理」に傍点]であった。
 さて吾々は、科学の方法を、自然科学と社会科学とに就いて、その共通な規定と、その上に於ける夫々の特異な規定とに於て、統一的に考察しよう。
[#改段]

  四 科学の方法(その二)


 科学の方法が、科学が反映する処の実在それ自身、そしてその意味における科学の対象そのもの、に基かなければならないということは、実は特別の議論を俟つまでもなく、云わば極めて当然な、健全な常識にぞくすることだとさえ云っていい。処がそれにも拘らず、所謂「科学方法論」や「科学論」、乃至それに準じる科学理論が、何故却って逆に、科学そのものをば、その方法によって規定しようとしたのであるか。之は依然として疑問でなくてはならぬ。
 この点に就いて充分の納得が行かない限り、リッケルトやディルタイの方法理論のかの弱点に就いての吾々の説明も、決して充分だとは云えない。実はこの「科学論」式の主観主義的な態度には、それが系統を引いている夫々の観念論的哲学の背景から来る必然性を他にして、現代に於ける諸科学がおくれている或る一つの事情が、その無理からぬ動機をなしている。
 と云うのは、現代ブルジョア社会に於ける、ブルジョア的社会諸科学[#「社会諸科学」に傍点](これは歴史学や文化諸科学を含むのだったが)が、同一の社会的乃至歴史的文化的な実在或いは対象をその対象とすべきであるにも拘らず、その現状から云って、蔽うべくもない理論の乱雑な無政府的な対立・撞着・矛盾に陥っているからである。そればかりでなく、ブルジョア社会科学とプロレタリア的社会科学との間の、到底相容れない建前の相違(部分的な合致に乏しくないにも拘らず)さえがあるからなのである。単に個々の理論に就いて異説が并立しているというだけではない(それならば科学が健全な発育をする時の必至の症状であって、又往々にしてその欠くことの出来ない条件でさえあるのだが)、夫々の科学そのものの根本的な建前[#「建前」に傍点]が、相互に根本的に相容れないのである。夫だけでない、もっと悪いことには、この二つの科学が互いに全くバラバラに無関係でさえあるのである。そういう点で、現下の諸社会科学程甚だしいものを見ない。
 処で元来、それにも拘らず、夫々の諸社会科学が認識すべきであった実際乃至対象――歴史的社会――というもの自身は同一であるべき筈だったのだから、この科学の建前上の紛糾錯雑の原因は、客観にあるのではなくて主観になければならぬ。従って全くその方法[#「方法」に傍点]の間の紛糾錯
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