`は絶対的相対主義という一つの絶対主義の外ではない。何となれば、かかる立場の純化――その整合の徹底――はかかる立場の絶対化なのであるから。そしてその結果は懐疑論なる認識論的立場[#「立場」に傍点]であることを人々は知っている。立場としての相対主義のこの絶対化――絶対主義――の観想的[#「観想的」に傍点]な性格が、この場合判断中止[#「判断中止」に傍点]となって現われるのは当然である。処が吾々の相対論の問題[#「問題」に傍点]――立場ではない――とする処は、恰も之と正反対に、問題の現実的な実践的[#「実践的」に傍点]な解決であったのである。――故に一般に所謂相対主義と所謂絶対主義の対立は、実は二つの立場[#「立場」に傍点]の対立であるのではない。そうではなくして正に、問題[#「問題」に傍点]の概念と立場[#「立場」に傍点]の概念との対立に相当するものなのである。それ故所謂相対主義は、絶対主義と対等な資格を有つにも拘らず、立場としては[#「立場としては」に傍点]一応薄弱に見えるのである。そして問題の概念を重んじることと立場の概念を重んじることとのこの対立は、実は又二つの問題[#「問題」に傍点]の対立――例えば歴史的社会的問題[#「問題」に傍点]と形而上学的神学的問題[#「問題」に傍点]との対立――に動機づけられているに外ならないのである。相対主義と絶対主義とを、二つの立場[#「立場」に傍点]として対立せしめれば、そこに結果するものは水掛論である、吾々は既にそれを見た。そうではなく之を二つの問題[#「問題」に傍点]に於て対立せしめれば、二つの主義は調停の条件を持ち合うことが出来るであろう*。――かくて問題の概念が立場の概念を優越する間接の証拠は、茲にその一つを示してはいないか。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
* 例えば或る意味の絶対主義がとりも直さず或る意味の相対主義に外ならない、というように。之は勿論二つの立場[#「立場」に傍点]の折衷を意味しない。
[#ここで字下げ終わり]
立場は、その概念の性格から云って、或る意味の絶対化であることが明らかとなったと思う。絶対化は常に非歴史化[#「非歴史化」に傍点]である。立場がどのように非歴史化的概念であるかを、改めて今見よう。
立場は整合を意味した。整合を論理的根拠・基礎としてその上に立てられた限りの理論内容は、体系[#「体系」に傍点]と呼ばれる。体系は立場の上に立つ。尤も体系的であることは時に、組織的であることを、即ち組織的方法[#「方法」に傍点]によることを、意味するであろう。処が今云う体系は恰も方法に対立する処の体系なのである。さてかかる体系は必ず一つの完結した終止を云い表わす。現実に於て成り立つ体系は必ず常に不完全であるから、体系は事実上決して静止していないには違いないが(例えば開放的体系[#「開放的体系」に傍点])、併しそれにも拘らず体系の概念は、現実的乃至理想的な一つの状態[#「状態」に傍点]――静止――を指し示す。例えば同じ目的行動であっても、既に一定の内容が這入った限りの目的を実現しようとする場合と、そうではなくして何かの目的内容を決定するために行動している場合とでは、目的の概念は異る。前の場合の目的は既知の理想状態[#「理想状態」に傍点]であり、後の場合の目的は行動の一般的動力に過ぎない。丁度この意味に於ける理想状態の状態という意味で、体系は状態であるのである。体系はそれが組織されつつある・体系立てられつつある・現実の瞬間――現在――に於ては、それ自身と矛盾する。何となればそれは正に状態であって之に反する過程ではないから。従って体系は常に、既成の(過去の)存在か、又は(未来の)ユートピアか、の何れかでしかない。体系が現実の過程を脱却している概念なのであるから、その性格を決定するものは、歴史的過程[#「歴史的過程」に傍点]ではなくして例えば論理的構造[#「論理的構造」に傍点]であることは必然である。というのは体系はただ、その論理的構造が完全であればある程、優れていると考えられる。論理的構造とは整合――立場――に外ならない。体系が立場に基く所以である。かくて立場は非歴史的概念であることが示された。
(問題は之に反して方法[#「方法」に傍点]と結び付いている、問題が提出されればそれを解決すべき方法はすでに与えられたのであり、又どのような問題を選ぶかは方法の第一歩を意味するのだから。処で方法は体系と正反対に、現実的過程そのものであるであろう。方法は歴史的過程にぞくす。問題は従って常に歴史的でなければならないわけである。――吾々は問題の歴史社会的規定を既に見ておいた。)
問題は歴史的であり、立場は非歴史的概念であることが明らかとなった。之を予想[#「予想」に傍点
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