見物は※[#「勹+夕」、第3水準1−14−76]々《そこそこ》にして宿に帰る。
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      茶路

 北太平洋の波の音の淋しい釧路の白糠《しらぬか》駅で下りて、宿の亭主を頼み村役場に往って茶路《ちゃろ》に住むと云うM氏の在否《ざいひ》を調《しら》べて貰《もら》うと、先には居たが、今は居ない、行方《ゆくえ》は一切分からぬと云う。兎も角も茶路に往って尋ねる外はない。妻児《さいじ》を宿に残して、案内者を頼み、ゲートル、運動靴、洋傘《かさ》一柄《いっぺい》、身軽に出かける。時は最早《もう》午後の二時過ぎ。茶路までは三里。帰りはドウセ夜に入ると云うので、余はポッケットに懐中電燈《かいちゅうでんとう》を入れ、案内者は夜食の握飯《にぎりめし》と提灯《ちょうちん》を提げて居る。
 海の音を背《うしろ》に、鉄道線路を踏切《ふみき》って、西へ槍《やり》の柄《え》の様に真直《まっすぐ》につけられた大路を行く。左右は一面じめ/\した泥炭地《でいたんち》で、反魂香《はんごんこう》の黄や沢桔梗《さわぎきょう》の紫や其他名を知らぬ草花が霜枯《しもが》れかゝった草を彩どって居る。煙草《たばこ》の火でも落すと一月も二月もぷす/\燻《くすぶ》って居ます、と案内者が云う。路の一方にはトロッコのレールが敷かれてある。其処《そこ》此処《ここ》で人夫がレールや枕木《まくらぎ》を取りはずして居る。
「如何《どう》するのかね」
「何、安田《やすだ》の炭鉱《たんこう》へかゝってたんですがね。エ、二里ばかり、あ、あの山の陰《かげ》になってます。エ、最早|廃《よ》しちゃったんです」
 案内者は斯《こう》云って、仲に立った者が此レールを請負《うけお》って、一間ばかりの橋一つにも五十円の、枕木一本が幾円のと、不当な儲《もうけ》をした事を話す。枕木は重にドス楢《なら》で、北海道に栗は少なく、釧路などには栗が三本と無いが、ドス楢《なら》は堅硬《けんこう》にして容易に朽《く》ちず栗にも劣らぬそうである。
 案内者は水戸《みと》の者であった。五十そこらの気軽《きがる》そうな男。早くから北海道に渡って、近年白糠に来て、小料理屋をやって居る。
「随分《ずいぶん》色々な者が入り込んで居るだろうね」
「エ、其《そ》りゃ色々な手合《てあい》が来てまさァ」
「随分|破落戸《ならずもの》も居るだろうね」
「エ、何、其様《そう》でもありませんが。――一人《ひとり》困った奴《やつ》が居ましてな。よく強淫をやりァがるんです。成る可く身分の好い人のかみさんだの娘だのをいくんです。身分の好い人だと、成丈外聞のない様にしますからな。何時《いつ》ぞやも、農家の娘でね、十五六のが草苅《くさか》りに往ってたのを、奴《やつ》が捉《つらま》えましてな。丁度其処に木を伐《き》りに来た男が見つけて、大騒《おおさわ》ぎになりました。――其奴ですか。到頭村から追い出されて、今では大津に往って、漁場《りょうば》を稼《かせ》いで居るってことです」
 山が三方から近く寄って来た。唯有《とあ》る人家《じんか》に立寄って、井戸の水をもらって飲む。桔槹《はねつるべ》の釣瓶《つるべ》はバケツで、井戸側《いどがわ》は径《わたり》三尺もある桂《かつら》の丸木の中をくりぬいたのである。一丈余もある水際《みずぎわ》までぶっ通しらしい。而して水はさながら水晶《すいしょう》である。まだ此辺までは耕地《こうち》は無い。海上のガス即ち霧が襲うて来るので、根菜類《こんさいるい》は出来るが、地上に育《そだ》つものは穀物蔬菜何も出来ず、どうしても三里内地に入らねば麦も何も出来ないのである。
 鹿の角を沢山|背負《せお》うて来る男に会うた。茶路川《ちゃろかわ》の水|涸《か》れた川床が左に見えて来た。
 二里も来たかと思う頃、路は殆《ほと》んど直角に右に折れて居る。最早《もう》茶路の入口だ。路傍に大きな草葺の家がある。
「一寸休んで往きましょうかな」と云って、案内者が先に立って入る。
 大きな炉《ろ》をきって、自在《じざい》に大薬罐の湯がたぎって居る。煤《すす》けた屋根裏からつりさげた藁苞《わらつと》に、焼いた小魚《こざかな》の串《くし》がさしてある。柱には大きなぼン/\が掛《かか》って居る。広くとった土間の片隅は棚になって、茶碗《ちゃわん》、皿《さら》、小鉢《こばち》の類《るい》が多くのせてある。
 額の少し禿げた天神髯《てんじんひげ》の五十位の男が出て来た。案内者と二三の会話がある。
「茶路は誰を御訪《おたず》ねなさるンですかね」
 余はMの名を云った。
「あ、Mさんですか。Mさんなれば最早茶路には居ません。昨年越しました。今は釧路に居ます。釧路の西幣舞町《にしぬさまいまち》です。葬儀屋《そうぎや》をやってます。エ、エ、俺《わたし》とは極《ごく》懇意《
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