れば、住居は天幕《てんまく》でも済《す》む自由の身である。それでさえ塒《ねぐら》はなれた小鳥の悲哀《かなしみ》は、其時ヒシと身に浸《し》みた。土から生れて土を食《く》い土を耕《たがや》して終に土になる土の獣《けもの》の農が、土を奪われ土から追われた時の心は如何《どう》であろう!
品川堀が西へ曲る点《とこ》に来た。丸太を組んだ高櫓《たかやぐら》が畑中に突立って居る。上には紅白の幕を張って、回向院の太鼓櫓《たいこやぐら》を見るようだ。北表面《きたおもて》へ廻《まわ》ると、墨黒々と筆太《ふでぶと》に
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霊場敷地展望台
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と洋紙《ようし》に書いて張ったのが、少し破れて風にばた/\して居る。品川堀を渡って、展望台の方へ行くと、下の畑で鉢巻《はちまき》をした禿頭《はげ》の爺《じい》さんが堆肥《つくて》の桶《おけ》を担《かつ》いで、※[#「女+息」、第4水準2−5−70]《よめ》か娘か一人の女と若い男と三人して麦蒔《むぎまき》をして居る。爺さんは桶を下《お》ろし、鉢巻をとって、目礼《もくれい》した。此は昨夕村会議員の一人と訪ねて来た爺さんである。其宅地も畑も所有地全部|買収地《ばいしゅうち》の真中《まんなか》に取こめられ、仮令《たとい》収用法《しゅうようほう》の適用が出来ぬとしても、もし唯一人売らぬとなれば袋《ふくろ》の鼠《ねずみ》の如く出口をふさがれるし、売るとなれば一寸の土も残らず渡して去らねばならぬので、最初から非常に憂惧《ゆうぐ》し、殆《ほとん》ど仕事も手につかず、昨日|訪《た》ずねて来た時もオド/\した斯老人の容子は余の心《むね》を傷《いた》ましめた。今其畑に来て見れば、直ぐ隣の畑には爺さんを追い払う云わば敵の展望台があたりを睥睨《へいげい》して立って居る。爺さんは昼は其望台の蔭で畑打ち、夜は望台の夢に魘《おそ》わるゝことであろう。爺さんの寿命を日々《にちにち》夜々《やや》に縮《ちぢ》めつゝあるものは、斯展望台である。余は爺さんに目礼して、展望台の立つ隣の畑に往った。茶《ちゃ》と桑《くわ》と二方を劃《しき》った畑の一部を無遠慮に踏み固めて、棕櫚縄《しゅろなわ》素縄《すなわ》で丸太《まるた》をからげ組み立てた十数間の高櫓《たかやぐら》に人は居なかった。余は上ろうか上るまいかと踟※[#「足へん+厨」、第3水準1−92−39]《
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