かげ》の頭、鷲の頭、梟《ふくろ》の頭、鰐《わに》の頭、――恐ろしい物の集会である。彼は上座の方を見た。其処には五分苅頭の色蒼ざめた乞食坊主が Preside して居る。其乞食坊主が手を挙げて相図をすると、一同前なる高脚《たかあし》の盃を挙げた。而して恐ろしい声を一斉にわッと揚げた。彼は冷汗に浸《ひた》って寤《さ》めた。惟うに彼は夢に畜生道に堕ちたのである。現《うつつ》の中で生きた人を喰ったり、死んだ死骸を喰ったりばかりして居る彼が夢としては、ふさわしいものであろう。
彼は粕谷の墓守である。彼の住居は外から見てのお寺である。如何様《どん》なお寺にも過去帳がある。彼は彼の罪亡ぼしに、其の過去帳から彼の餌になった二三|亡者《もうじゃ》の名を写して見よう。
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綱島梁川君
明治四十年九月某の日、柄杓《ひしゃく》が井に落ちた。女中が錨を下ろして探がしたが、上らぬ。妻が代って小一時間も骨折ったが、水底深く沈んだ柄杓は中々上ろうともしない。最後に主人の彼が引受け、以前相模の海で鱚《きす》を釣った手心で、錨索《いかりなわ》をとった。偖熱心に錨を上げたり下げたりしたが、時々はコトリと手答はあっても、錨の四本の足の其何れにも柄杓はかゝらない。果ては肝癪《かんしゃく》を起して、井の底を引掻き廻すと、折角の清水を濁らすばかりで、肝腎《かんじん》の柄杓は一向上らぬ。上らぬとなるとます/\意地になって、片手は錨、片手は井筒《いづつ》の縁をつかみ、井の上に伸《の》しかゝって不可見水底の柄杓と闘《たたか》って居ると、
「郵便が参りました」
と云って、女中が一枚のはがきを持て来た。彼は舌打して錨を引上げ、其はがきを受取った。裏をかえすと黒枠《くろわく》。誰かと思えば、綱島梁川君の訃《ふ》であった。
彼は其はがきを持ったまゝ、井戸傍《いどのはな》を去って母屋の縁に腰かけた。
*
程明道《ていめいどう》の句に「道通天地有形外」と云うのがある。梁川君の様な有象《うしょう》から無象に通う其「道」を不断に歩いて居る人は、過去現在未来と三生を貫通して常住して居るので、死は単に此生態から彼生態に移ったと云うに過ぎぬ。斯く思うものゝ、死は矢張|哀《かな》しい而して恐ろしい事実である。
彼は梁川君と此生に於て唯一回相見た。其は此春の四月十六日であった。梁川
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