「言+虚」、第4水準2−88−74、450−上−14]《うそ》であろうというと、もう、そんなところにいるものか、遠くの親類が引き取ったとか、またこういえば、私が東京へ帰って行くとでも思ったか、世話をする人が家内にするといって東京へ連れて行ったなどといろんなことをいっていた。たしかに南山城に行っているとも思えないが、母親が、いつもよくいうとおりだとすれば、あるいはそうかも知れぬ。あの女が、自分の索《さぐ》り求めえられる世界から外へ身を隠した、もう、とてもどうしても会うことも見ることも出来ぬと思えば、自分は生きている心地《ここち》はせぬ。そんな思いをして毎日じっとして欝《ふさ》いでばかりいるよりは、当てのないことでも、往って探《さが》してみる方がいくらか気を慰めると思って、私は、十二月のもう二十九日という日に、わざわざそちらの方へ出かけていった。木津で、名古屋行きに汽車を乗り換えると、車内は何となく年末らしい気分のする旅行者が多勢乗っている。一体木津川の渓谷《けいこく》に沿うた、そこら辺の汽車からの眺望《ちょうぼう》はつとに私の好きなところなので、私は、人に話すことは出来ないが、しかし、自
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