とはちっとも心配いりません。機嫌さえ直ればいいです」
 母親はそれでも腹から憂わしげな顔をして、
「わたし、もう心配で。あの娘が、あのとおりあんまり我儘いうて、あんたはんに後で愛想尽かされるようなことがありゃしまへんかと思うて、心配でならんどすさかい、昨夜《ゆうべ》あとであちらの主人のところへ相談に往《い》て来ましたのどす。そしたら、あちらの姐《ねえ》さんのおいいやすには、お母はん、なんもそないに心配することはない、そんなこというて、あんたはんに甘えるんやさかい、構わんとおきやすいうてくりゃはりましたけど、私はそれが心配になって、ゆうべも、よう寝られしまへんのどす。ほて、お母はん一遍本人を越《おこ》しやす、私からよう言うて聴かすさかい、いうておくれやすので、それで今日あの子もちょっと屋形《やかた》へいとります。また姐さんから、あんじょう言うて聴かしておくれやすやろ思うてますけど」
 私は母親が正直そうにそういって心配しているのを聴くと、ひとしお打ち解けた好い気持になって、
「どうぞ、そんなに心配しないで下さい。だだを捏ねているのはよくわかっているんです」
といって、自分も一緒に笑ってい
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