垢拔けがしてゐた。藝者なんかも隨分まじつたが派手なだけで、その踊りにくらべることもできなかつた。
そして、さういふ姿の人達はほんとうに踊りを樂しみに出るらしく、見物人をつゝいたりふざけたりはせず、頃合ひの時間に靜かにどこかの家蔭から現はれ、踊りの輪に加つて、默つて踊りに身を入れ、やがて來た時と同じにそつと歸つて行つた。かういふ姿と踊りの美しさは永い間に造り上げられ、又自然と亡びて行くので、たとへば壺だの皿だのいふやうな民藝品のやうに保存法を講ずることもむつかしいだらうが、出來ることなら保存させたいと思ふ。それほど、あれは見てゐて美しく、氣品があつた。
この盆踊りも私が二十歳時分には段々とやかましく取締られるやうになり、最近又盛んになつたとも聞くが、風紀のこともこの頃ではさう心配することはあるまいと思ふ。弊害よりもその與へる樂しみの方がはるかに大きいだらう。私なんかは、今もつてあの踊りの美しさを忘れかねてゐるし、東京に住んで思ひ出したゞけでも幸福な氣持になるのである。
底本:「日本の名随筆19 秋」作品社
1984(昭和59)年5月25日第1刷発行
底本の親本:「田畑修一郎全集 第三巻」冬夏書房
1980(昭和55)年10月
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2006年8月3日作成
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